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マスター・オブ・ゼロ/ミレニアル世代が怖いこと

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 Netflixドラマ『マスター・オブ・ゼロ』はミレニアル世代を巧みに描く現代的今日的要素を活かしながらいつの世も人間が抱く普遍的なテーマを孕んでいる。

【目次】

  1. 『マスター・オブ・ゼロ』が描くミレニアル世代
  2. 高齢者が多い『マスター・オブ・ゼロ』
  3. 多くの選択肢を持つミレニアル世代が逃すもの
  4. ミレニアル世代が抱える今日的で普遍的な恐怖

.『マスター・オブ・ゼロ』が描くミレニアル世代

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(スターバックスで映像チャットを用い演技オーディションを受ける主人公)

  『マスター・オブ・ゼロ』は、ニューヨークの独身30代を描いたミレニアル世代を描くドラマだ。ミレニアル世代とは1980年から2000年ごろに産まれた人々を指し、特徴の1つに「デジタル・ネイティブ」がある。ミレニアル世代はスマートフォンSNSの利便性を享受し「便利な生活」を送っている。『マスター・オブ・ゼロ』の登場人物は自然にスマートフォンやストリーミング・サービスを使っている。昔と違って、今は遠くにいる映画監督にスターバックスで演技を見せることも出来る。

 本作の重要な特徴に「多様性」があるのだが、これも現代性およびミレニアル世代の特徴としてカウントできる。メイン・キャストにはインド系、アジア系、アフリカ系がおり、人種差別やジェンダー問題を扱うエピソードが多い。大方は「人種差別も性差別も“昔よりは”改善されたがまだまだ存在すること」を示し、最後はジョークに仕立てるスタイルだ。さて、この括弧中の“昔よりは”がポイントだ。『マスター・オブ・ゼロ』は現代の若者をリアルに描いた作品ながら、主人公たちの親&祖父母世代が多く登場する。

2.高齢者が多い『マスター・オブ・ゼロ』

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 『マスター・オブ・ゼロ』には親&祖父母世代の登場数が多い。年長者と交流した主人公は、過去の世代よりも自分たちが多くの“選択肢”を得ていることを学ぶ。ある程度の収入を得る30代ニューヨーカーは、祖父母世代より異性間結婚のプレッシャーを負っていない。マイノリティであろうと、親世代よりは差別を受けづらく、よって就職および退職の機会も多くなっているだろう。便利なスマートフォンもストリーミング・サービスもあるから趣味も楽しみやすいし、LCCで安価で旅行ができる。なんと恵まれているのか、ミレニアル世代! このように、ミレニアル世代の特徴を過去の世代と比較することで巧みに明瞭化しているのだ。

 しかし『マスター・オブ・ゼロ』はそこで終わらない。ミレニアル世代がぶつかる弱点もまた描いている。

3.多くの選択肢を持つミレニアル世代が逃すもの

 ニューヨークに産まれた、それなりの収入を持つ独身ミレニアル世代は“選択肢”が多い。まずニューヨーク社会の思想が変容した。そしてインターネットなどで目にする“選択肢の存在”も過去と比べれば桁違いだろう。同時に“それらの選択肢が孕むリスク”もたくさん見ることができる。

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 上記は「スマートフォンで近場のタコス・レストランを探す主人公」。これこそミレニアル世代がナチュラルに持つ“沢山の選択肢”である。ネットで調べれば、近場にある沢山のタコス屋を知ることができる。その中で高評価な店もすぐ見つかる。でも、その店のレビュー郡に低評価があったら? 気分によっては「やっぱり他の店も探そう」となり、より時間がかかる。このエピソードで、スマートフォンで多くの店を調べた主人公は外に出る時間が15時となり、目当ての店のタコスを食べることは出来なかった。昼も過ぎたから売り切れていたのだ。ネットを立ち上げずにすぐ外に出ていたら、美味しいタコスが食べられていたかもしれない。

 “多くの選択肢の存在”によって逃すものが近所のタコスならまだいい。また別の日に食べに行ける。でも、それが愛しい人だったらどうだろう?

 4.ミレニアル世代が抱える今日的で普遍的な恐怖

 「結婚観」。これはミレニアル世代と前世代では大きく変容しているだろう。「若いうちの異性間結婚だけが幸福の道ではない」という考えは、ミレニアル世代間で(前世代よりも)拡がっているはずだ。「異性間結婚だけが幸福の道ではない」という思想の存在は、異性間結婚以外の“選択肢の存在”を示してくれる。インターネットで日々供給される「結婚を失敗した」といった情報は、“結婚という選択肢が孕むリスク”を示してくる。実は『マスター・オブ・ゼロ』第1話はこのようなことを描いている。「結婚して自分たちと遊ばなくなった友達は幸福そうに見えていたが実は家庭内不和を抱えていた」というエピソードだ。その友人を見た主人公は結婚への理想を半ば失う。「大きな決断」をしないまま、今の生活を続けても人生は十分楽しい。「大きな決断」の無い人生。タイトル『Master of None』。「何も極めていない」。

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 ミレニアル世代の独身30代である主人公・デフは「何も極めていない」。仕事はスカウトされたことがキッカケの売れない役者で、演技へ情熱があるわけでもない。物凄く熱中している趣味があるわけではない。異性愛者だが、結婚などの人生プランは特に考えていない……と言うより、結婚などの「大きな決断」を半ば恐れている*1。彼は「大きな決断」を恐れるあまり、シーズン後半で愛しい人との関係に亀裂を入れてしまう。実はこれこそが『マスター・オブ・ゼロ』のテーマなのだ。シリーズの構成も「大きな決断」である結婚問題で始まり結婚問題で終わっている。

 デフのようなミレニアル世代は恵まれている。過去の世代より多くの選択肢を得ている。でも、だからこそ、人生を決める大きな決断をする決心がつかない(そして大きな決断をしなくても30代前半のうちは十分人生を楽しめる)。『マスター・オブ・ゼロ』はそんな物語なのだ。「多くの選択肢を知っているからこそ大きな決断を恐れること」は、情報化社会が当然となっているミレニアル世代が直面しがちな今日的な問題だろう。そして「大きな決断を恐れること」自体は、いつの時代も人間に立ち塞がる普遍的な問題である。そんな今日的かつ普遍的な問題を描いた『マスター・オブ・ゼロ』が“選択”した結末は感動的である。

Grade:A

参考資料

www.netflix.com

 Netflix「マスター・オブ・ゼロ」第2シーズン決定 - シネマトゥデイ

Master of None would like to thank straight white guys for their boring TV shows - Vox

The Creator Of "Master Of None" Thanked Straight White Guys In His Acceptance Speech

*1:デフは出会い頭でSEXした相手の妊娠を極度に恐れていたし、恋人が真剣に怒っても冗談で返すシーンが多い。