『ブラックミラー』半分ノンフィクション?元ネタ紹介
Netflix配信中のUKドラマ『ブラックミラー』。人気のあるテクノロジーをテーマとしたSF寓話だが、多くのエピソードには「実話の元ネタ」および「実話になってしまった予言的描写」が挟まれている。英国首相は本当に豚とファックした?ソーシャルランクによって値踏みされる社会はすでに中国で実現?etc……本作の“ノンフィクションな側面”を複数紹介したい。
【目次】
- S1E1『国歌』:本当に豚とファックした英国首相
- S2E1『ずっと側にいて』:死者と会話するbotサービス
- S2E3『時のクマ、ウォルドー』:英国選挙の謎キャラ文化
- S3E1『ランク社会』:中国で流行る信用階級
- S4E1『宇宙船カリスター』
- S4E4『Hang The DJ』:選択肢が多すぎる情報恋愛社会
- S4E5『メタルヘッド』:キモい殺人ロボ
- おまけ:S3E4『サン・ジュニペロ』のテーマソング歌詞
S1E1『国歌』:本当に豚とファックした英国首相
「首相が豚とファックしなければ誘拐した王妃を殺す」──誘拐犯の異常な要求によって英国首相が追い詰められていく物語。SNSや海外メディア等、政府によって統制できない情報群によって首脳が迫られる様が描かれていく。「首相と豚のセックス」のTV放送を迫るなど考えれないが……実は、このエピソードは一部ノンフィクションを帯びてしまった。2015年、現実の英国首相デービット・キャメロンが「死んだ豚にフェラチオさせた過去」を暴露されたのだ。まさに『ブラックミラー』の「豚とファックする首相」そのものである。ドラマの放送はキャメロン首相スキャンダルの4年前。クリエイターのチャーリー・ブロッカーは「元々首相の豚ネタを知っていた」噂を否定する羽目になった。ある面、作家側すらも「情報と大衆」に追い詰められるようなかたちとなった『ブラックミラー』らしい顛末である。
S2E1『ずっと側にいて』:死者と会話するbotサービス
夫を失くした女性が「死者とチャットできるサービス」を始める物語。既視感を覚えた人もいるかもしれないが、SNS投稿やメールを解析し「チャット相手」を創り出す会社は現実にも存在する。ロシアのAI企業CEOユーゲニア・クイダは亡くなった親友のデジタル記録データをAIに与え「チャットbot」を作り上げた。そして、登録者とそっくりなチャットボットを作るアプリ「Replika」をリリース。『ブラックミラー』と異なるのは「そっくりボット」のモデルとなる人物の同意の有無だ。このような「チャットbot」を作るサービスは他にもあるようで、登録者の死後に重宝されそうなため、今後「倫理的な議論が巻き起こる」と言われている。
S2E3『時のクマ、ウォルドー』:英国選挙の謎キャラ文化
TV番組の下品なキャラクタ・ウォルドーが選挙に出馬し、その「中身のな暴言キャラ」が大衆に受けて上手くいってしまうエピソード。2016年以降に見るとポピュリズムやトランプ大統領を思い出す話だが、実はイギリス政治には元々「謎のキャラクタ候補」文化が存在する。
Theresa May doing her best to stay away from Lord Buckethead on the stage at Maidenhead count. pic.twitter.com/dcUnmVgfCT
— Jim Waterson (@jimwaterson) 2017年6月9日
この写真は2017年の下院議員選挙。「謎キャラ候補」は一人ではなく、エルモとバケツヘッド卿の2人が壇上に立っている。しかもあのテリーザ・メイと同じ選挙区で、首相と同じ場にいるから驚きの絵だ(写真向かって左メイ首相、真ん中バケツヘッド卿、右エルモ)。ちなみにこのバケツヘッド卿は「人気歌手アデルの国有化」を公約にしていた。残念ながら、得票はたった249票。
(メイ首相とエルモ、バケツヘッド卿 via https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170609-00000009-storyfulp-eurp.view-003)
S3E1『ランク社会』:中国で流行る信用階級
SNSが生活のインフラとなり、そのランクまでオープン状態になった世界の物語。SNSランクに囚われる世界観もオシャレでInstagramじみている。
製作がNetflixとなり「初見に相応しい」回となっているが、実はこのSNSランク社会は中国で現実になっている。それはあのアリババ系列の電子マネーサービス「芝麻信用」。この社会信用サービスのスコアは300〜850点。700以上は羨望される対象と報じられている。アルゴリズムによって点数計算されているらしいが、大きな内訳は5つ「身分」「人との繋がり」「返済能力」「信用の歴史」「行動」。『ブラックミラー』同様、600点以上だとホテルやレンタカーのデポジットや賃貸物件の敷金が無料になる。さらに、ドラマと同じようにスコアが低いと最悪ホテルの予約を断られる。この芝麻信用のスコアは、婚活市場や就活への影響も見せているようだ。全土の大学で「社会信用スコア1位を争うゲーム」まで開催されていた。さらには、政府機関までもこの社会スコアを公的に使おうとしている。
中国南西部に位置する貴州省は17年1月、「芝麻信用」と信用情報の利用協定を締結。「信用度の高い者を支援し、低い者を懲戒する」措置を進めると発表した。そこには当然、人々に「良い行動」を促し、社会の安定を促進、治安を維持する狙いがある。
中国政府がこの社会スコア情報を取得し、インターネットで政府にネガティブな投稿をした国民が「大幅なスコア減点をされたら」……。『ブラックミラー』を超えてジョージ・オーウェルの『1984』だ、と国内外から批判を呼んでいる。
S4E1『宇宙船カリスター』
「オタクが創り上げたゲーム」の中に閉じ込められてしまった人々(の人格)の物語。このオタクは明らかに『スタートレック』をモデルにしたドラマのファンで、つまりこの回は『スタートレック』のパロディとなっている。面白い点は、ゲームに閉じ込められた人々が「自殺」を目指し奔走するところ。『スタートレック』の代表的なスピリットと言えば、名台詞「長寿と繁栄を」。つまり、『ブラックミラー』S4E1は、『スタートレック』を模範しながら『スタートレック』と対極の自死を目標にするのである。ラストのオチもまた『ブラックミラー』らしい皮肉に仕上がっている、しかし、それがなんとも『スタートレック』らしいところが流石かつ興味深い方法。
S4E4『Hang The DJ』:選択肢が多すぎる情報恋愛社会
恋愛パートナーを全てAIアプリに頼る人々の物語。劇中の人々は「運命の相手」だけでなく「運命の相手に辿り着くまでの恋人たち」もAIまかせ。「このデート相手と何日で別れるか」までアルゴリズムに決定されており、使用者たちはその指示に従って(嫌な相手でも)付き合い、予定通りの日程で別れる。
アプリを使う主人公たちは「昔は自由恋愛だったなんて信じられない」「選択肢が多すぎて自分では決められない」といったようなことを口にする。これはインターネットが普及する現実にも見られる兆候に思う。そのような「選択肢の多すぎる恋愛」問題に着目したのが『マスター・オブ・ゼロ』でも知られるアジズ・アンサリ。彼の著書を紹介しているのがこちらのブログ「もっといい人いるかも症候群 - Modern Romance by Aziz Ansari - 未翻訳ブックレビュー」。記事によると、2005年から12年にかけて結婚したアメリカのカップルの3分の1はオンラインで知り合っている。日本でも流行しているマッチングアプリ。「選択肢が多すぎてわからない」状況のおいて「アルゴリズムに任せたい」人は案外多いかもしれない。
ちなみにタイトルの元ネタはTheSmiths『Panic』。「クソ曲を流すDJを吊るせ!!」と訴えるような曲で、恋人や交際期間を支持するAIに歯向かう主人公とマッチしている。
S4E5『メタルヘッド』:キモい殺人ロボ
ポスト・アポカリプス世界で倉庫にいたロボットに窃盗犯が追いかけられるエピソード。このロボット、明らかに「キモいロボ」として話題になったボストン・ダイナミック社のBigDog。元々このBigDogは軍用ロボットとして開発されている。
劇中では「まさに犬」といった風にパブロフの犬理論的にスリープモードに入ったりするこのロボット。モデルとなったボストンダイナミック社のBigDogは進化を続けているようで、最近はバク宙やドアを開ける能まで身につけたらしい。『ブラックミラー』ばりの機能に刻々と近づいているのかもしれない。
この『メタルヘッド』では、テクノロジーが軍事に用いられること、そしてそれが上流階級にのみ従属する危険性が語られている。ラストで明かされるものは、無機質な「ロボット」に対する「人間の人間性」なのではないだろうか。また、このエピソードはスピルバーグ監督作『激突!』『ジョーズ』を引用・参照。
おまけ:S3E4『サン・ジュニペロ』のテーマソング歌詞
ここで終わるのも難なので1つ小ネタを。
エミー賞を受賞した人気エピソード『サン・ジュニペロ』。この回でエンディングに挿入される曲がベリンダ・カーライズ『Heaven Is a Place on Earth』。この1987年の楽曲は「『ブラックミラー』のために作られたのではないか」と錯覚するほど物語にマッチしている。こちらのブログから引用させていただくかたちで紹介したい。
夜が降りて来ると、私はあなたを待つ あなたがやって来ると世界は生気に満ちる
この世界で私たちは今まさに始めようとしている 生命の奇跡を理解することを
前は怖かったけれど 今はもう怖くない
あなたに分かるかしら? これがどれほど価値あることか
天国はこの地上にあるのよ 天国では初めに愛があるというわ
私たちでこの地上に天国を作りましょう 天国はこの地上にあるのよ
参照元:Heaven Is A Place On Earth : Belinda Carlisle - Belinda Carlisle