さよならジャスティン・ビーバー / Instagram削除騒動に感じる問題性
(「貴方はただのオモチャ」:男性スターを性的玩具とする10代女性ファンダムの極端なパワーと狂気の可視化をテーマの1つとしたNamilia S/S 2017コレクション)
ジャスティン・ビーバーがInstagramを削除した。 一部ファンからのヘイトが手に負えない、と発信した直後だった。彼の元恋人である歌手セレーナ・ゴメスも意見を表明し、インターネットやメディアは大変な盛り上がりを見せた。この熱中は、誹謗中傷に怒ったジャスティンがこれといった有名メディアに擁護されることなく、ただ嘲笑される趣きが強いままに終わった。果たして、それは良かったのだろうか?
【目次】
- ジャスティン・ビーバーInstagram削除騒動の概要
- 香る芸能人差別
- 問題の矛先は
- 最後に、究極のフ○ック・ユー
1.ジャスティン・ビーバーInstagram削除騒動の概要
Instagram削除騒動の概要をまず説明する。
- ジャスティン・ビーバーが恋人と噂されるソフィア・リッチーとの写真を自身のInstagramに投稿
- ファンとされる一般ユーザーたちがソフィアへの誹謗中傷コメントを大量に書き込む
- ジャスティン・ビーバーが新たな投稿でソフィアへの中傷について苦言 「君たちがヘイトを止めないようならInstagramを非公開にする。もう手に負えない。もし君たちは本当にファンなら、僕の好きな人々に酷いことはしないはずだ」
- その投稿にジャスティンの元恋人セレーナ・ゴメスがコメント 「ヘイトが手に負えないなら彼女との写真を載せるのをやめれば?(笑) 2人の間だけの特別なものにするべき。ファンに怒らないで。彼らは貴方を愛してる」
- Twitterなどでファンを庇ったセレーナが賞賛され、ファンに怒ったジャスティンが非難&嘲笑されるムーブメントが起こる
- ジャスティン・ビーバーがInstagramアカウントを削除
- セレーナ・ゴメスが謝罪 「私が言ったことは自己中心的で無意味だった」
フェイクであると指摘されたジャスティンとセレーナの口論*1や、一部ファンダムで囁かれたソフィアに関する疑惑*2、そしてファンにボルテージを蓄積させたであろう最近のジャスティンの諸問題*3は本稿にあまり関係が無い為、除外する。
2.香る芸能人差別
私が違和感を抱いたのはインターネットやウェブメディアでの取り上げ方である。前述したように、セレーナがファン想いだと賞賛される一方でジャスティンはファンに逆ギレする裏切り者のような非難と嘲笑を受けていた。この傾向に言いたいことは1つだ。 ジャスティン・ビーバーにどんな問題があったとしても、彼の「隣人へのヘイトをやめてほしい」という訴え、それだけは尊重されるべきではなかったのか?
この件に関しては様々な意見がある。「未成年の女性ファンを多く抱えるジャスティン・ビーバーが堂々と恋人の写真を公開したらヘイトを受け取るリスクが高い」。私もこの意見には同意する。しかしながら、これは「可能性」や「マネジメント」の話であって、ジャスティンがヘイト領域の攻撃を受けていい「理由」にはならない。職業や需要をもとに「加害されて良い存在」と断じてはいけない。「芸能人、又はアイドルと言われる存在はファンからヘイト領域の攻撃をされても一般人と違って本人の責任」とする論は、芸能人は基本的人権を剥奪される“特例”とする職業差別であろう。多くの人々やメディアに賞賛されたセレーナ・ゴメスのコメントは、この芸能人差別に結び付けられやすい危険性を孕んでいる。もう一度彼女のコメントを見てみよう。
「ヘイトが手に負えないなら彼女との写真を載せるのをやめれば?(笑) 2人の間だけの特別なものにするべき。ファンに怒らないで。彼らは貴方を愛してる」
ヘイト領域の誹謗中傷を直接行う人々にまず非があるはずなのに、その前提が抜け落ち「ヘイト攻撃をするファンを生むような写真を公表する芸能人に非がある」ことになっている。そもそも、ジャスティンには自由恋愛の権利があり、それを公表する権利もあるはずだ*4。また、ファンの好意はヘイト領域に達した暴言の「免罪符」にはならない。「ヘイト領域の攻撃を行う者」は、ファンであるかないかに関わらず「ヘイト領域の攻撃を行う者」だ。ファンには好意を持つ自由、想像をする自由、期待を持つ自由がある。時に期待を裏切られてスターに憤慨することもあるだろう。その怒りをスターに通知はいかないかたちで表明する自由はある。「貴方が恋愛を公表して悲しい」と個人的な思いをスター本人にリプライすることも自由の範囲内だと個人的に思う。でも直接的なヘイト領域の攻撃ーーつまりは暴力、これは駄目だ。貴方が人権を肯定するのであれば。又は、貴方がスターのことを愛しているのならば。
3.問題の矛先は
私個人としてはセレーナ・ゴメスを責める気は一切無い。彼女は謝罪の意を示したのだから、それで終わりのはずだ。この件について問題性を感じるとするとしたら、セレーナ・ゴメスへの賞賛ムーブメントに乗っかった有名メディアである。特に、普段は「セレブリティの人権」について訴えているのに、今回は「ヘイト領域の攻撃を受けるジャスティン・ビーバー」を一切庇わず、半ば面白半分にセレブリティへの人権侵害を是としたメディア郡。その影響の大きさから、彼らが掲げる人権意識とは対極の方向へ人々を向かわせてしまうのではないか。
ジャスティン・ビーバーのファンダムをネガティヴに見せたい気も無い。確認の術を持たないが、今回の騒動でジャスティン本人に攻撃をしたファンより、しなかったファンの方が多いだろう。平和を願うファンより攻撃的なファンの方が(バイラル・メディアに報道されるなどして)目立ってしまう現象は大規模ファンダムにありがちなことだ。代わりと言っては難だが、1つエピソードを紹介しよう*5。ジャスティン・ビーバーにインタビューしたライターが、その直後に彼の追っかけをするファンに遭遇し、彼について1つだけ知ることができるなら何が知りたいか質問した。そこで提示された彼女たちの“満場一致”の答えは攻撃性とは真逆のものだ。 「彼は大丈夫?」
4.最後に、究極のフ○ック・ユー
先ほど紹介したエピソードで、ジャスティン・ビーバーのファンに彼は大丈夫か問われたインタビュアーはこう綴っている。
何と言えばいいのか分からない。ジャスティン・ビーバーは魅力的な男性で、悲しそうでもあり、同時に幸せそうで、混乱しているようだった。(中略)彼が大丈夫かどうかは分からない。おそらく考えすぎないほうがいいのだろう。もしかすると、彼はうまいこと切り抜けたのかもしれない。このインタヴューの初めにこう言っていたように。「僕は生きてる。それが大事なんだよ」
引用元:ジャスティン・ビーバー『NME』ロング・インタヴュー「僕は何か深いところにあるものに反抗してた」 | NME Japan
普段セレブリティのゴシップを能動的に拡散しネガティヴと捉えられやすいコメントを発信している私自身がこのような記事を書いても、最上級の「お前が言うな」である。一応、セレブリティ本人へ直接ヘイト領域の言葉をぶつけることには反対だし、ファンの好意をその暴力の「免罪符」とする傾向には異を唱えたかった。この「免罪符」論は、暴力に出ないファンたちの好意や誠意までも侮辱しているように思えてならない。記事を終わらせよう。不倫スキャンダルが発覚し多大なバッシングを受けていたクリステン・スチュワートを擁護したジョディ・フォスターのエッセイを一部引用する。
「前にも言いましたが、もう1度言います。もし私が現代に生きる若い役者だったら、始める前にやめているでしょう。今日のメディア文化の中で育たなければならないとしたら、私は精神的に耐えられないと思います。私のことを本当に愛してくれる誰かが、腕を回して安全な場所へと導いてくれることを望むことしかできないでしょう」
(中略)
「不公平な状況や心が痛むこと、絶望的な苦しみが生じるたびに、母は『物事には必ず終わりが来る』と言ったものでした。私はあのフレーズがたまらなく大嫌いでした。陳腐で状況を把握していないように聞こえましたし、まるで私の痛みには意味がないと言われているような気分でした。奇妙なことに、今はあの古臭いフレーズを真実だと思えるのです…最終的に、この全ての状況には終わりが来るでしょう。今日の世間における恐怖は、最終的には吹き飛ばされて行きます。もちろん、そういった恐怖が残した爪痕により、あなたは変わるでしょう。以前より信用しなくなり、自分の歩を計算するようになります。そして乗り越えるのです。その過程で、あなたが空に両手を広げて自由奔放に駆け回る能力を失わないことを願います。それこそが究極のフ○ック・ユーであり、最も美しい生き残るためのツールとなるのです。それだけは誰にも奪わせないでください」
参考資料
Washington Square News : Namilia S/S 2017
Selena Gomez And Justin Bieber Are Feuding On Instagram
Justin Bieber, Selena Gomez Instagram Fight: Fact Vs Fiction
Justin Bieber Came The Fuck Through And Actually Deleted His Instagram
Selena Gomez Justin Bieber Instagram Fight Sofia Richie
21 Hilarious Twitter Reactions To Selena Gomez Dragging Justin Bieber
ジャスティン・ビーバー『NME』ロング・インタヴュー「僕は何か深いところにあるものに反抗してた」 | NME Japan
ジョディ・フォスター、長文エッセイでクリステン・スチュワートを擁護 | 映画ニュース | MTV JAPAN
*1:Gossip Copによれば、ジャスティンとセレーナの交際時に関する口論は偽装と指摘されている。フェイクとされているコメントは、ジャスティンの「俺を利用したくせに」「ゼイン・マリクと浮気した」、セレーナの「貴方は何度も浮気した」といったもの。Justin Bieber, Selena Gomez Instagram Fight: Fact Vs Fiction
*2:ジャスティン・ビーバーがファンに苦言を催す前、彼はInstagramで元恋人ヘイリー・ボールドウィン、ソフィアの元恋人ジェイデン・スミス、そしてリアーナをリムーブし、後日ジェイデンのみ再フォローしたことがファンの間で話題となった。ソフィアがジャスティンとジェイデンの友人関係を壊したのでは、と疑り反感を覚えるファンもTwitterに存在した
*3:2016年3月、ジャスティンは22万円のVIPチケット特典であるミート&グリートを急遽取りやめ、自身の等身大パネルを設置した。同年5月にはファンに貰ったプレゼントを「くだらない」と吐き捨てその場で捨てる動画も拡散されていた。そして当時17歳だった恋人ソフィア・リッチーは未成年な為、成人であるジャスティンはいわゆる未成年淫行となるのだが、特に大きな問題として扱われなかった。 ジャスティン・ビーバー、ミート&グリートの代わりに等身大パネルが設置されることに | NME Japan ジャスティン・ビーバー、ファンからのプレゼントを車の窓から投げ捨て - ViRATES [バイレーツ]
*4:当時のソフィア・リッチーは未成年だった為、成人ジャスティンの交際は未成年淫行となるので、実は自由恋愛と言い切れないのだが、ジャスティンがまだ22歳でソフィアが18歳間近だった為なのか、大して問題にされなかったし、このことがInstagram削除騒動の話題に出ることも少なかった
*5:ジャスティン・ビーバー『NME』ロング・インタヴュー「僕は何か深いところにあるものに反抗してた」 | NME Japan