2015-01-01から1年間の記事一覧

ウォーリアー★★★テアゲネスと白鯨とベートーヴェン

映画『ウォーリアー』の父と兄弟はそれぞれメタファーを背負っている。弟は英雄テアゲネス、父は『白鯨』、そして兄はベートーヴェン。この3つのメタファーから三者を考察する。 【目次】 弟テアゲネスが本当に欲しかったもの 白鯨と闘う父 ベートーヴェン…

『ハンガー・ゲーム FINAL: レボリューション』イラク戦争のメディア戦略

『ハンガー・ゲーム』はメディアの物語だ。メディアに纏わり付かれた主人公カットニス・エヴァディーンは「ヒーロー」ではなく「広告塔」、そして「戦争の被害者」である。イラク戦争を発端に開始された本シリーズは巧みに「戦争下のメディア戦略」を描き、…

『偽装の夫婦』立派な結論、しかし功罪の功しか描かぬ構成不備

『偽装の夫婦』の結論は多様性肯定だ。性的関係が無くとも、互いが「家族になりたい」と思ったなら家族になって良い。この提唱は異性愛&恋愛至上主義とは対極にあるだろう。しかしながら、この提唱は成立しきれていない。提唱自体を発する地盤となる作品自…

何がジェーンに起ったか?★★★★★いい子になれたジェーン

『何がジェーンに起ったか?』において“起ったこと”は、尊大であったベイビー・ジェーンが“いい子になれたこと”である。序盤と終盤シーンの類似はその変化を表している。 又、姉妹間には嫉妬の他に互いの罪悪感が大きく介在している。その為、単純に「姉妹間…

国家ある絶望『タクシードライバー』と国家なき夢『ナイトクローラー』:70年代ナショナリズムと10年代キャピタリズム

『ナイトクローラー』と『タクシードライバー』を比較することで1970年代と2010年代のアメリカ社会の違いを考察する。こちらのサイトにあるように、2作は多くの共通点を持つ。車に乗る夜の仕事、鏡、孤独な一人暮らし、ダイナー、年齢差ある年齢……。そして…

『ナイトクローラー』経済映画としての失敗、エンタメ寓話としての成功

『ナイトクローラー』は今日の資本主義システムを提示する映画だ。社会派、経済映画として作られた。監督側が最も表現したい物は主人公ルーではなく、ルーを産み出す今日の資本主義システムなのだ。だからカメラはルーを野生動物のように映す。まるで、野生…

『わたしに会うまでの1600キロ』立派すぎた助手席の娘

ダメ人間讃歌ではない。「立派すぎた母と駄目な娘の物語」でもない。主人公の凋落は、「立派すぎた母と娘ゆえの悲劇」だ。自分の人生の運転席に座れなかった母親と同じく、主人公もまた「母の立派な娘」という助手席に乗り続けていた。1,600キロの横断は、彼…

『デスノート』友人想いのLと立派な父親、ただ消え去るだけの凡人殺人鬼

ドラマ版『デスノート』は罪悪感から免れる為に新人格「キラ」を創り出してしまう物語である。物語が進むにつれ、月はどんどんキラを自身の人格に取り込んでしまう。最終的には完全にキラに呑み込まれ、月自身がキラとなる。この「キラ」化の通過儀礼となっ…

『ど根性ガエル』二次元を現実へ書き換える延命

ドラマ版『ど根性ガエル』の命題は「二次元世界」を「現実世界」で延命させることである。その「二次元世界」とは原作に他ならない。原作が持つ「二次元世界」の最たるメタファーがピョン吉。だからドラマの主題は「現実世界でのピョン吉の延命」となる。ド…

『羊たちの沈黙』レクター博士とクラリスが触れ合うシーンの元ネタ:殺人鬼と尼僧見習いの洗礼

トマス・ハリス『羊たちの沈黙』の登場人物であるハンニバル・レクターは複数の実在殺人鬼のモデルを持つ。その中の1人が、獄中からFBI捜査に参画した連続殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスである。平山夢明『異常快楽殺人』によると、どうやらこのヘンリーは…

私的VMA最優秀賞ビデオ政治部門 Nicki Minaj『Anaconda』/Kendrick Lamar『Alright』/ Rihanna 『Bitch Better Have My Money』

フェミニズムとブラック・リブズ・マターの年である。noicey by VICEによると、昨今のアメリカ音楽シーンにおけるフェミニズム活性化の契機となったMVは2013年のロビン・シック『Blurred Lines』、マイリー・サイラス『We Can't Stop』。VMAはそれぞれを2013…

私的VMA最優秀賞ビデオ商業部門 Taylor Swift 『Blank Space』/Mark Ronson ft. Bruno Mars 『Uptown Funk』/Nicki Minaj ft. Beyoncé 『Feeling Myself』

2015 MTV Video Music Awardsが揺れた。ニッキー・ミナージュとテイラー・スウィフトの会話が大きな話題となったが、実はニッキーが声を挙げる前からノミネートへの疑問の声は多く挙がっていた*1。ノミネート・リストはこちら。商業主義なら、何故One Direct…

リアーナ『Bitch Better Have My Money』が明示したフェミニズムと人種差別の衝突/暴力の時代とブラックスプロイテーション映画の復活

2015年7月1日にリリースされたリアーナ『Bitch Better Have My Money(以下BBHMM表記)』が議論を巻き起こしている。動画冒頭で告知されるように、未成年禁止レイティングで、性的かつ暴力的な映像が続く。ここまで過激なら議論が生じても不思議ではないが…

危険ドラッグ業の概要 暴力団&中国との関係 謎の北朝鮮

一ヶ月で15人の使用者を死に至らしめた「ハートショット」事件から少し経ち、日本の危険ドラッグは衰退フェーズに入ったらしい。厚労省麻薬取締部が法的拘束を強めた為、「逮捕されやすい犯罪」を避ける半グレ集団たちが撤退した。これが本当なら日本は「世…

危険ドラッグ業から退いた半グレは金密輸に走る/でも堅気には戻れないワケ

溝口敦『危険ドラッグ 半グレの闇稼業 (角川新書)』によると、2015年現在、危険ドラッグ業は法規制により商売しにくい状態らしく、それをシノギにしていた半グレ達は、2013年頃から「金インゴット密輸」に走ったらしい。この密輸は、一時「ド素人でも4年で…

『グローリー/明日への行進』反差別ゲーム

"LoveWins"。2015年6月26日、アメリカ合衆国全州において同性婚が合法化された。この可決に大きく寄与したのは世論変化だ。WSJ紙によると、1990年時点ではアメリカ人の8人中7人が「同性愛は正しくない関係」と見なしていた。2004年にしても同性婚支持率は…

デスノート(B)キラに殺されるキラ/ど根性ガエル(A)サザエさん時空vs.現実

映画『クロニクル』に似た『デスノート』1〜2話、ピョン吉を否定する危険性を孕む挑戦に出た『ど根性ガエル』1話の感想です。 デスノート/キラに殺されるキラ ドラマ版の夜神月は普通の大学生である。「やれば出来るのに」と認められながら、安定の為に…

『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』親殺しと子殺しの同居

まるで婿舅ドラマである。カイル・リースはT-800に「サラ・コナーの婿に相応しいか」審査されているような絵面。そんな家族的物語の印象を残す本作は、タイムトラベルによって多くの「親殺し」と「子殺し」を発生させている。非常に複雑な関係性に注目すると…

2015年度ゴシップ上半期アワード〜前編〜

ゴシップ−醜聞−……。それは毎日毎秒、供給され、受容され、そして忘れ去られてゆく存在……。ゴシップ文化により芸能人の人生は消費され、また、それを受けた芸能人側も話題になる為に仕込みゴシップを供給する、現代社会の闇構造……。本アワードは、そんな芸能…

'15上に聴いたジャズ、クラシック、モダンクラシカル (Brasstracks/AVISHAI COHEN TRIO/FRANÇOIS-XAVIER ROTH/Nils Frahm/Michael Price)

掴みとして人気曲のBrassリミックス。SoundCloudのFlow-Fi界隈にて活躍する、フューチャーベース+Brassな2人組BrasstracksによるRihanna and Kanye West and Paul MacCartney『Four Five Seconds』Brass ver.。インストゥルメンタル版はこちら。 【JAZZ】A…

『ラブライブ!The School Idol Movie』マイルドヤンキー的「今の私たち賛美」

『ラブライブ!』 は一貫して「仲間主義」である。第1期では、ことりは個人の夢を追いかける為に地域の仲間を切り捨て留学しない。第2期では、μ'sは「今の9人」が最高であるから、先輩を送り出して新入生を迎え入れない。ただμ'sは「今の私たち」を賛美す…

マイルドヤンキーの「地域&仲間主義」は貧困起因

マイルドヤンキーは地元&仲間愛が強い。これが現在のマイルドヤンキーへのイメージだが、それは何故なのか?大きな要因は地方の低賃金、低所得だ。この2つで、一般的に挙げられるマイルドヤンキーの特性は説明がつく。 1.マイルドヤンキーの概要 一般的に…

『新宿スワン』原作に糾弾される“他人事”を吐く映画

歌舞伎町はヒーローになれない街である。少なくとも、スカウトには。映画版『新宿スワン』は、「スカウト業に必然的に宿る陰」……「女性の人生を破綻させる大きな可能性」を“見て見ぬ振り”している。その為に、「スカウト業に必然的に宿る陰」を緻密に描いた…

人間の論理と直観〜うんこカレーに潜む二重過程モデル〜

人間は「直観」から逃げられない。幾ら論理的であるとされる「推論システム」のみで思考しようと努めても、“理屈に合わない”と感じる行動を促す「直観システム」には抗えない。それをカレー&うんこで説明します。(本文1,767字) 1.カレーとうんこカレー 「…

名探偵コナン 業火の向日葵★★★コナンの劣化

コナンのネタまとめ感想。全ネタバレ。 (本文2,275文字) 【NY編】 「その名も7人のサムライ…!圭子アンダーソン!宮台 なつみ!東幸二!石嶺泰三!チャーリー!」←チャーリーさんだけ苗字が無くて可哀想 飛行機での誰得な百合 【空港編】 予告編で流れた…

『フォックスキャッチャー』隣人を壊す完璧ヒーロー

殺人動機は「ヒーローがヒーローだったから」だ。完璧なアメリカン・ヒーローが男を狂わせる。もちろんヒーローは悪くない。彼は仕事も家庭も完璧な男で、正にアメリカが誇る「アメリカの英雄」。それ故に「ヒーローになりたくてなれなかった男」は狂ってゆ…

『セッション』梶原一騎イズムの異常者バトル

梶原一騎テイストの「異常者vs.異常者」映画である。実際とは異なった音楽描写も、なんだか「いい話」風に終わるハラスメント描写も、梶原一騎『巨人の星』系統と捉えればそう気にならない。才の無い異常者・指導者と、才のある異常者・生徒が出逢い、“偶然”…

『劇場版ドラゴンボールZ 復活の「F」』悟飯とフリーザが弱いわけ

「戦闘狂」たちの物語となった新生『ドラゴンボール』で、戦闘狂・孫悟空が「弱点」を克服する話だ。『ドラゴンボール』は、2010年代に入って【善vs.悪のヒーローもの】の冠を捨て【戦闘狂バトルもの】にアップデートされた。その中で「ヒーロー」である…

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』アメコミファンも批評家も愛のビギナー

「大衆作品vs.芸術作品」構図ではないと考える。知識不足の商業主義業界人やアメコミ映画偏重傾向の描写が目立つが、それらの「ハリウッドの問題」を描く中で、芸術志向者たちの矛盾と「ブロードウェイの問題」も描いている。人間のエゴを主体に描きながら、…

『博士と彼女のセオリー』崩壊した"円"と現代に残る"直線"

最初からすれ違っている夫婦の話である。画面に着目すると、とにかく「円」が多い映画で、その暗喩は執拗な程に出現する。…ブラックホール、螺旋階段、瞳孔、コーヒー、夫婦の戯れ、チョーク、池作り、車椅子の周回、ボール、模型、電球、メリーゴーラウンド…