マイルドヤンキーの「地域&仲間主義」は貧困起因
マイルドヤンキーは地元&仲間愛が強い。これが現在のマイルドヤンキーへのイメージだが、それは何故なのか?大きな要因は地方の低賃金、低所得だ。この2つで、一般的に挙げられるマイルドヤンキーの特性は説明がつく。
1.マイルドヤンキーの概要
一般的にマイルドヤンキーはどのような特徴なのか。不動産投資家・芝山元の解説を引用する。
- 生まれ育った地元指向が非常に強い(パラサイト率も高い)
- 郊外や地方都市に在住(車社会)
- 内向的で、上昇指向が低い(非常に保守的)
- 低学歴で低収入
- ITへの関心やスキルが低い
- 遠出を嫌い、生活も遊びも地元で済ませたい
- 近くにあって、なんでも揃うイオンSCは夢の国
- 小中学時代からの友人たちと「永遠に続く日常」を夢見る
- できちゃった結婚比率も高く、子供にキラキラネームをつける傾向
- 喫煙率や飲酒率が高い
何故、現代のマイルドヤンキー達は、地元と地域の仲間にこだわるのか。何故、彼らが好み易いとされるEXILEが活躍している都市への上京、それどころか都市への遠征自体を嫌うのか。マイルドヤンキーの言葉を流行らせた(そしてその流行を作り出す為に書かれたような著しくデータ掲載不足の)原田曜平『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』を読んでもその疑問は解消されなかった。そんな中、意外にも、専門的分析は行わず目の当たりにした貧困層の若者について伝え続けるルポライター・鈴木大介による『最貧困女子』に納得できる背景が描かれていた。マイルドヤンキーが地元と仲間に拘る理由は、上記概要にも入っている「車社会の郊外や地方都市」「低学歴&低収入」である。
2.低所得で生き抜く術としての仲間主義
マイルドヤンキーは、所得が少ないからこそ、地元の友達と車や遊興、果ては家事育児を「シェアリング」している。「地元の友達とのシェアリング」こそが低所得の彼らが生き抜く生存方法なのだ。故に結婚率が高いし、上京を避ける。
『最貧困女子』で取材を受けた北関東の28歳女性はマイルドヤンキーと呼べる存在だ。彼女の周辺では月収10万円が「普通」と言う。大型リサイクル店で衣服を買い、100円均一ショップで食品を買い、外食はペットボトル1つで長居できるホームセンターのフードコート。ファミレスは高額なので、子供が出来てから。食費は月1万5千円程度で、肉類が食べたくなったら実家、もしくは友人とのBBQ。最も痛い出費は車中心社会の必需品である自動車、その維持費、ガソリン代。その為、地元の仲間達と共に車に乗り、ガソリン代を折半する。燃費の良いワゴンに乗ってる友達は重宝されており、イツメンの必須キャラ。マイルドヤンキーの特徴として挙げられる「スポーツカーよりミニバンが好き」という傾向は、このシェアリング生活に起因するのだろう。東京への遠征は、高速代も駐車代も物価も高額であるし、そもそも「地元とAmazonに無くて東京でしか買えぬ物」など無いから、行かない。鈴木大介氏の記述を引用する。
永崎さんらの最大の生活の知恵は「シェア」という感覚だ。彼女の会話の中にはともかく「友達が」「友達と」と、友達がらみの話が多いのだが、それもそのはず。彼女らの生活は、基本的に地元友達との「支え合い、分け与え」で成立している。まず地元の友達と休みの日に出かけるときは、友達3人ほどとショッピングモールの大型駐車場に集合し、1台に乗ってガソリン代割勘で一気に行きたいところを回るというのだ。
取材対象者が住む北関東地方の平均賃金の低さ、そして「デフレ包囲網」整備も確認している。
確かに彼女らの暮らす地元の求人ペーパーを確認する限り、手取り18万円を超えるような仕事は非常に限定されているが、永崎さんがガイドしてくれたように彼女らの周囲には、月に10万円で生活が可能で、さして不満も感じないための「デフレ包囲網」と言えるようなインフラが、完全に整備されている。地域全体が低所得だが、そこに大きく不満を感じないだけの経済圏が完成しているのだ。
マイルドヤンキーの「仲間主義」は、「所得の少なさを補う地元友達とのシェアリング」が生活の大きなメリットとなることの結果だ。また、読み進めると、「地元主義」も車社会(地方)で安全に生き抜く為のリスク回避であることがわかる。
3.リスク回避としての地元主義
鈴木氏は、取材したマイルドヤンキー達から「地元を捨てたら負け」「上京したら負け」という感覚を感じたという。取材対象者の女性は、上京による「婚期逃し」リスクを強調する。彼女によると、仕事で上京した同級生は苦労している人が多い。上京者は特に女子が多いが、一人暮らしは費用がかかる為に大方シェアハウス住み。大体は地元に居る以上に貧乏。そして、女子の場合は、上京した場合100%婚期を逃す。地元で早くに結婚し、共稼ぎした方が生活も人生も充実する。地元で仕事する場合、女性は30代に入っても賃金が上がらないどころか、むしろ加齢する程にマトモな仕事が無くなる。それならば、お金は無くても、体力がある内に第一子を産み、30代になるまでは子供を小学校に上げてしまった方が良い。周囲の同世代が一気に子供を産めば、子育てで協力し合えるメリットがある為、乗り遅れない方が良い。鈴木氏はこう語る。
マイルドヤンキーって馬鹿っぽい語られ方をされていますけど、皆すごく考えているんですよ。彼らが言う、一番まずい家庭のカタチが専業主婦で正規雇用の旦那を持つこと。旦那がダメになったら、もう終わりですよね。
24歳くらいで子どもを産んで、30歳までに小学生に入れるというのが、彼女たちの最小リスクの考え方です。子どもが小学校に入れば、離婚しようが女手ひとつでガンガン働いてなんとかなる。一番仕事が無くなる時期に子どもに手がかかるのを怖がる感じです。
非常に理路整然としている。車社会の郊外&地方都市といったマイルドヤンキー達の地域では、早くの内に出産し、仲間と出費を分担した方が生き易いのだ。上京チャレンジには大きなリスクが伴う為、女性も男性も地元に残り、地元の仲間達と「リスクの少ない人生」=「地元主義」を選択する。こうして見ると、マイルドヤンキーの特性にはいつも「車社会の郊外&地方都市の低賃金」「低学歴&低所得」が纏わり付いている。まとめに入る。
4.地域の低所得化を象徴するマイルドヤンキー
1章に掲載した10個のマイルドヤンキーの特徴は、全て「車社会での低学歴・低収入」で説明ができる。もう一度引用する。
- 生まれ育った地元指向が非常に強い(パラサイト率も高い)
- 郊外や地方都市に在住(車社会)
- 内向的で、上昇指向が低い(非常に保守的)
- 低学歴で低収入
- ITへの関心やスキルが低い
- 遠出を嫌い、生活も遊びも地元で済ませたい
- 近くにあって、なんでも揃うイオンSCは夢の国
- 小中学時代からの友人たちと「永遠に続く日常」を夢見る
- できちゃった結婚比率も高く、子供にキラキラネームをつける傾向
- 喫煙率や飲酒率が高い
引用元:マイルドヤンキー - Wikipedia
まず【2.車社会の郊外や地方都市】での【4.低学歴で低収入】がある。【3.内向的で、上昇指向が低い(非常に保守的)】理由は、「夢を追いかけるような挑戦」が「人生を貧困と孤独に突き落とすリスク」を孕んでいる事を熟知してる為だ。失敗リスクの低い生き方は、地元で友達と出費・物資をシェアリングすること。そうして、【1.生まれ育った地元指向が非常に強い】といった特性に至る。
所得が低いのならば、【7.近くにあって、なんでも揃うイオンSC】といった大型量販店で低価格の食品・衣服を揃えるようになる。反対に、東京などの都心や旅行は遠征費も物価も高くつく為、【6.遠出を嫌い、生活も遊びも地元で済ませたい】思想に向く。【9.できちゃった婚比率の高さ&子供にキラキラネームをつける傾向】、【5.ITへの関心やスキルが低い】、【10.喫煙率や飲酒率が高い】という傾向は、元々【4.低学歴で低収入】層で活発だろう。【9.結婚率の高さ】は、第3章で記したように、「地元友達と育児のシェアリングするメリットを享受したい」「女性は30代に入っても賃金が上がらない為、お金が無くても体力ある20代の内に産んでおきたい」といった需要も関係すると思われる。
先に地方の経済低迷があるなかで、先に危機に陥って、先に打開策を考えているのがマイルドヤンキー、という印象を受けました。
マイルドヤンキーとは、「未知の新人類」ではなく、「地域の貧困化によってごく自然に生じた若者たちの特性」、あるいは「地域の貧困化を体現する若者たち」だ。大前提として日本経済の閉塞感、郊外&地方都市の低賃金が存在する。そのような環境で、若年貧困層がチャレンジに向かわず、リスクを回避する保守的な生き方を選択するのは当たり前だ。ヤンキーが夢を見なくなったのは、困窮する現在の日本経済が若者から夢を奪った為である。
若者のワープア率地図の変化。列島のブラック化の進行。「失われた20年」の可視化は,実にたやすい。 pic.twitter.com/vjcymyvQwI
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2015, 5月 6
参考文献
原田曜平『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』