危険ドラッグ業の概要 暴力団&中国との関係 謎の北朝鮮

 一ヶ月で15人の使用者を死に至らしめた「ハートショット」事件から少し経ち、日本の危険ドラッグは衰退フェーズに入ったらしい。厚労省麻薬取締部が法的拘束を強めた為、「逮捕されやすい犯罪」を避ける半グレ集団たちが撤退した。これが本当なら日本は「世界で唯一危険ドラッグ撲滅に成功した国」となる。そんな中で溝口敦『危険ドラッグ 半グレの闇稼業』が概要をまとめており、面白いネタも多かったので紹介する。

  1. ケーキを作るくらい簡単な危険ドラッグ製造販売
  2. メーカーも店員も素人で危険ドラッグ未経験
  3. 暴力団覚醒剤ビジネスとは衝突しない
  4. 日本側より偉い中国化学企業
  5. 北朝鮮は危険ドラッグ流通量が高い
  6. 危険ドラッグ潰しに成功した日本

1.ケーキを作るくらい簡単な危険ドラッグ製造販売 

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 危険ドラッグの製造は、台所でケーキを作るくらい簡単である。市場の流れはこのようなものだ。中国、ヨーロッパから原材料の化学薬物を輸入する。それらを輸入した者がメーカー、卸に流す。メーカー、卸が薬剤を植物片にまぶして乾燥させる。ここで必要となる物は、油脂類を溶かすアセトン、薬剤を溶くエチルアルコール、ビタミンC保存剤のアスコルビン酸又はパウダー状スポーツドリンク、料理用ボール、扇風機のみ。パッケージされた商品は販売業者に提供され、小売店やインターネットで1つ4,000〜6,000円で販売される。

 薬剤輸入元は低価格帯の中国の小規模化学企業が多い。ヨーロッパ輸入は高価だし、日本企業は薬事法を破らない。日本の場合、法規制によるイタチごっこが盛んだった為、原材料製造企業へ「法改正ごとに違法にならぬ成分を伝える必要性」があった。この専門的分野を調停するのが国内危険ドラッグ市場の半分を仕切っている人物・Qである。Qは独学ながらデザイナー・ドラッグの専門知識を学び、中国側と交渉が出来た。日本の危険ドラッグ業において薬物知識を保有している人材は滅多にいない為、希少な存在であるQは業界必須の存在となり、市場の半分を仕切るブローカーにまで登りつめた。あれだけ大きな社会問題となっていた危険ドラッグの業者にほぼ知識が無いことは衝撃だが、それどころか彼らは危険ドラッグ未経験者が多く、危険ドラッグを嫌悪する傾向にあるという。

2.メーカーも店員も素人で危険ドラッグ未経験

 危険ドラッグ業者で危険ドラッグを嗜好する者は少なく、それどころか嫌悪している者が多い。上記で述べたように、危険ドラッグは原料を手に入れられさえすれば簡単に作って売れる。最初は合法だった為に暴力団のケツ持ちも必要としなかった。それ故に元々ヤミ金オレオレ詐欺で儲けていた半グレ達が飛びついたのだ*1これらのほとんどの人間は、金が儲かるから売っていたに過ぎない。客について気にすることは「効きが足りない」という声だけである。結果、素人ばかりのドラッグ・ビジネスが成立した。「ハートショット」という危険ドラッグは、2014年9月〜10月間で使用者15人を死に至らしめた。そこまでの事件を起こしておきながら、このヒット商品を売っていた業界2位企業の社長すらドラッグに関する知識はほぼないことが本に記されている。

 彼らの中には、「危険ドラッグを嗜好する業者は長続きしない」なる常識があるようだ。客に商品説明をする店員までも未経験者が多く、客には「あれは駄目になった」「これが前のやつと似ている」などと適当に返しとけば大丈夫なのだという。このような文化だから「法規制が進んだ今、売る奴は開き直っているだけだが、買う奴はバカ」という声が挙がる。売人側に中毒者が多い暴力団覚醒剤ビジネスとは文化が異なっている。似ているようで違うので、危険ドラッグが暴力団覚醒剤ビジネスへ影響を与えることはあまり無い。

3.暴力団覚醒剤ビジネスとは衝突しない

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 全盛期2011年〜2012年には、「ド素人でも4年でサラリーマンの平均生涯所得を稼げる/社長ならばその10倍」と謳われた危険ドラッグ業。そこまで潤っても、暴力団が長年シノギとしている覚醒剤ビジネスとは衝突しなかった。同じドラッグでも生息地が違うのである。危険ドラッグビジネスは短期/低価格帯】【覚醒剤ビジネスは長期/高価格帯】。危険ドラッグの値段は千円単位、覚醒剤は万円単位である。客層も異なっておりユーザー流出入もほぼ無い。戦後長らく暴力団資金源にしている覚醒剤には、ヘロインやコカインと同じく「適量」が決められている。「適量」通りの摂取をすれば、肝臓内蔵の機能はほぼ壊れない。ヤクザは覚醒剤使用者を潰さず、長きに渡って高額の覚醒剤を売り続ける。反して危険ドラッグは法規制とのイタチごっこをするから細かく短期的なビジネスだ。使用者が死んだり事故を起こしてもお構いなし。暴力団からしてみれば、参入するメリットは少ないし、だからといって潰す手間をかける商売敵でもない。それ故か、意外なことに、危険ドラッグ業者にとっては暴力団よりも買い付け先の中国企業が障壁となった。

4.日本側より偉い中国化学企業

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 衰退フェーズに入った危険ドラッグ業は、海外からの化学物質の入荷も8〜9割減った。法規制の影響により、日本業者より優位に立つ中国化学企業から見限られつつある状態だという。

 日本での危険ドラッグ原料の輸入元は中国とヨーロッパである。しかし、ヨーロッパ産は高額で、中国は安い。利益1,000万円の商売でも、中国産だと30万円、ヨーロッパ産では100万円かかる。だから日本の危険ドラッグ(の原材料)の多くは中国産だ。ただし危険リスクはヨーロッパ産が低い。危険ドラッグ原料生産を受け持つ小規模中国化学企業は、高学歴技術者が集っていようと劣悪な環境で、容器をよく洗浄していない。それ故に覚醒剤が付着していたり、混ざってはいけない毒物同士が混ざってしまう。ここからも危険ドラッグ使用者の死や事故が生まれる。

 商売に必須であったこの中国化学企業が日本業者を切りつつある。彼らはヨーロッパやロシアなどの大口顧客も抱えている。ロシアは月1トン単位で購入するが、日本の取引量は1回10〜20キロ程度。全盛期でも1年半で1.5トンの購入。ロシア、北欧、東欧の危険ドラッグ市場は日本の10倍以上である。ロシアやヨーロッパはクレームが少ないのに、法規制とのイタチごっこを繰り返す日本は複雑な要求を何度も繰り返す。中国化学企業からしたら、日本のドラック業者は少ない金しか払わないクレーマー的存在なのである。実際、日本の危険ドラッグ業者はこのような脅し文句を中国化学企業に言われたらしい。このことは厚労省のドラッグ撲滅運動の成功の1つだろう。

5.北朝鮮は危険ドラッグ流通量が高い

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 ここで海外薬剤メーカーが述べる危険ドラッグ流通量ランキングを載せる。

1位北米

2位ヨーロッパ

3位ロシア(2位3位は拮抗)

4位北朝鮮

5位アジア(日本中心、韓国には危険ドラッグ市場無し) 

    -溝口敦『危険ドラッグ 半グレの闇稼業 (角川新書)』より

 何故か北朝鮮が高い。ランキングを教えてくれた人物も理由はわからないという。元々マリファナを禁じず、プライベート・ガーデンで栽培していると噂される文化圏なので、東アジアでも有数のドラッグ国家なのかもしれない。普及率は謎。

総括:危険ドラッグ潰しに成功した日本

 厚労省によると、2014年3月末では215店であった危険ドラッグ販売実店舗は、同年11月末には35店、12月末は5店にまで減少した。今危険ドラッグを販売するならインターネット通販となるが、それにしても壊滅され続けており、購入希望者が海外から個人輸入する方法がメインとなっていくと予想される。

 日本は危険ドラッグを排斥できた世界初の国家となれるのかもしれない。この成功は、日本は元より非常に薬に厳しい国で、世論もドラッグ反対派が圧倒的マジョリティな為、欧米諸国より弾圧しやすい環境であったことが大きい。以下は違法薬物の生涯経験率だ。

違法薬物生涯経験率

アメリカ 40%

イギリス 31%

ドイツ  25%

フランス 23%

オランダ 21%

日本   1.9%*2

  -溝口敦『危険ドラッグ 半グレの闇稼業 (角川新書)』p.154より

 危険ドラッグ業が駄目になった今、それを運営していた半グレ達はどこに行ったのか?どうやら金インゴット密輸が流行しているらしい。以下記事参考。

outception.hateblo.jp

参考文献

危険ドラッグ 半グレの闇稼業 (角川新書)

危険ドラッグ 半グレの闇稼業 (角川新書)

 

 North Korea Smokes Weed Every Day, Explaining a Lot | VICE | United States

*1:堅気も居た。主に実店舗経営を担当。前身は裏DVD屋、アダルトショップ、大人のおもちゃ屋、アメリカングッズ屋、東南アジア産小物屋、ハーブお香屋など。そして少数のヤクザが居たが、小売り段階に留まる程度。

*2:これはジャンル別で最も高い有機薬剤の数字。大麻1.1%、覚醒剤0.5%、脱法ドラッグ0.4%、MDMA0.3%、コカイン0.1%