『天才作家の妻 40年目の真実』 A STAR IS BORN
『アリー/スター誕生』の新人女優レディー・ガガと2019年主演女優賞レースを争う作品だが、大女優グレン・クローズが14年かけて製作したこちらの映画こそ「スター誕生」と言うべき気迫がある。
【以下ネタバレ】
本作でスターが誕生するのは2回。1回目は、かりそめのスターが生まれた前日譚──ある意味で誕生せざるをえなかった過程を指す。ここで織り成されるのは、ただ単に夫が横暴だったという話ではない。作家を目指す女性がしばしば阻まれた1950年代当時の社会状況が大きなポイントだろう。つけ加えれば、現実の1990年代イギリスで『ハリー・ポッター』を発表したJKローリングすら「女性名だと売れない」と指示されたというのだから「昔の話」と割り切れない効力がある。2018年アメリカの『アリー/スター誕生』すら主人公を除く男性キャラばかりで、それが「プロデューサーの男女比が49対1とされる現実の音楽産業を反映していてリアル」だと真剣に語られる始末だ。
スターが誕生する2回目はいつか。それは最後の最後に位置する。人によって解釈がわかれるであろうラストについて、グレン・クローズはこう考えている。
ジョーンもこの映画の最後には、やっとありのままの自分になれたと思います。おそらく、あの後、自分の名前で執筆活動をするだろうし、自分の声を発信していくんじゃないか。子供にも真実を話し。世界も彼女だったのだと知っていくことになると私は思っていますよ
クローズの考えに従えば、この映画のラストシーンは、2度目の「スター誕生」を描いたことになる。まずかりそめのスターの作り方を提示し、そこから数十年の時を経て隠されたスターの解放に到達する。『天才作家の妻』も『アリー/スター誕生』もカップルの悲劇をとおして女性表現者が開花する物語なわけだが、40年間連れ添った夫婦を “Hidden Figures” な共犯とも言い換えられる本作の場合、悲劇の一言では片づかない歴史と感情、そして恐らくは社会批判がふつふつと溢れかえっている。そうした複雑性と重量は、すべて主演の瞳で表されているといっても過言ではない。海外の評論家が書いたように、グレン・クローズがアカデミー賞を獲得するのならば、そのまなざしでオスカーを獲る最初の女優になるだろう。