映画『ジーザス・イズ・キング』 IMAXゴスペル礼拝体験

これは俺に関するフィルムじゃない。礼拝の映画──ユニバーサルなものだ - カニエ・ウェスト

同名アルバムにあわせた40分程度のIMAXムービー。カニエ・ファンはもちろん、新しいかたちの「劇場体験」を求める人にもオススメしたいのですが、個人的に最も観てもらいたい相手はキリスト教礼拝に通っていた経験を持つ人かもしれません。とにかく超スピリチュアリティな「ゴスペル礼拝」没入体験です。

・新たなる劇場体験

巨大画面も音響も壮大なIMAX。本国運営に「ハリウッド大作を見る場」イメージから脱したい意向もあるそうで、ニック・ナイト監督いわく『Jesus Is King』は体験、信仰、エモーションにまつわるアートフィルム。何者かの目から見たような限定された画面や豊穣に重なる音響まで、すべてが最新鋭IMAXシアターにおける「ゴスペル礼拝」に集結する凄まじさは圧巻でございます。これだけで今までにない劇場映画体験なのですが、もの凄いところはフィーリングに激振りなところ。礼拝と言っても、祈祷も説教もない「ただ音楽、ただフィーリング by.キム・カーダシアン」なサンデーサービス式なわけです(参照)。そのため、個人的には下調べも要らない「ただ感じろ」映画。

この映画に主演するサンデーサービス合唱団の人々は、全体的なメッセージに対しても非常に重要です。彼らはボーカリストとしても人間としても非常にすばらしい。ヒューマニティ、そして究極的な喜びと魂の救済を求める闘争、これこそフィルムのコアなのです - 監督ニック・ナイト

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カニエも我々も”汝”なり

第一印象は「最新鋭の劇場設備におけるゴスペル礼拝没入体験」ムービー。コーチェラ配信において「神の眼」と推測された”何者かの目から見るような限定的な画面”にしても、裏返せば、礼拝堂で壇上の合唱団を見る信者の視点っぽくもあるかなと思ったり。史上最高のアーティストを名乗るカニエさんですが、本作に限っては「カニエも我々もみな大いなる神の名の下の”汝”なり」バイブスを感じました。前アルバムのタイトルにもなった『ye』信念ですね(参照)。ゴスペル合唱が終わったあと会場を掃除するシーンなんかは「いつなんどきも父なる神は視ている」観を感じたり、『フィリピの信徒への手紙(字幕「ピリピ」表記)』の引用も絶妙。

・信徒バック効果?

サンデーサービスは喜びにあふれています。ヘビーで重苦しいと思われることもある信仰と礼拝ですが、ここでは異なる。本作の合唱団は、歌うことによってエモーショナルに解放されているように見えます(中略)映画『Jesus Is King』を観た人々には、自分自身に満足してほしい。そして感動してほしい。合唱団の人々がみずからのキリストへの献身によって感銘を受けるように  - 監督ニック・ナイト

以前書いた「カニエとキリスト教」記事で触れたことですが、アルバム以上に「チャーチから離れた者を引き寄せる効力」を強烈に感じた一作でありました。そもそも自分が未成年のころ通ってた人間でもあり……個人的な感想として、映画版『Jesus Is King』は「礼拝体験」を思い起こすパワーが凄まじい。ノスタルジーではなく、自分のなかの根底に眠っていた精神性とか信仰心を噴出させられたような衝撃がありました。上手いのは、一般的な教会と異なり音楽スピリチュアリティ一辺倒なところ。実際の教会に参加するよりも手軽、かつ感情が揺さぶられまくるので最大瞬間風速的でもある。アメリカでは「礼拝に行かなくなった」系統の観客が珍しくはなさそうなので、カニエ・ウェストの名でここまで霊的な没入体験映画を出したことは訴求力あるんじゃないかと。かつて礼拝に通っていた人が歳月や苦境を経てふたたび教会を求め始める現象って結構あると思うんですよねぇ。CINRA.NETでフォーカスしたブラッド・ピットなんかもまさしくそう語っていて、サンデーサービスにも通っているようです。

・流石の監督ニック・ナイト先生

引用した諸発言はSHOWstudioより。"worship"の翻訳迷ったのですが、一旦「礼拝」で統一したので留意いただけたら。ファッション・フォトグラファーとして有名なニック・ナイト監督ですが、カニエ史的には『New Slaves』、『BLKKK SKKKN HEAD』、そして『Bound 2』ミュージック・ビデオ製作も担当しております。i-Dインタビューも面白く、インターネットが普及した90年代終わりからファッション雑誌の可能性を信じなくなったようで、より観客に寄り添うファッション・フィルム製作を本格化させたようです。こうしたディレクター・サイドの考えを踏まえると、新たなメディアとしてのIMAX”礼拝”映画『Jesus Is King』はより興味深いかなと思います。

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