『クレイジー・リッチ！』麻雀シーンの意味
RealSound様にて紹介させていただいた映画『クレイジー・リッチ！(Crazy Rich Asians)』。
非常に重要である麻雀シーンについて説明させていただいたのですが、本稿では更に踏み込んだネタバレ解説を致します。８牌の意味や座席位置など、基本的な解説は上記記事の後半に書いたので、まずはそちらを御覧ください。
【※以下ネタバレ】
麻雀でレイチェルは何を伝えたのか
Vultureにて、ジョンMチュウ監督自ら麻雀シーンを語っています。あのゲームで何か起こったのか。レイチェルはエレノアにわざと勝たせました 。己の「勝ち札」である８牌を捨て、相手に拾わせたかたちです。対局後、レイチェルがひっくり返した牌にエレノアが驚いたのはその為だと思われます。
この駆け引きは何を意味するのか。Real Sound記事でほのめかしたように「幸福」を表す８牌は２人とってのニックの象徴。レイチェルは「自分が勝ったにも関わらず自らの意志でエレノアに勝利（ニック）を授けたこと」を麻雀で強調しました。現実でも、ニックは家族を捨ててレイチェルと駆け落ちしようとしたので、彼女が申し出を断らなかったらエレノアは息子を失っていました。この構図が麻雀によって印象づけられたことで、エレノアはまさに「移民２世のアメリカ人」を忘れられなくなる……つまりは、映画のハイライトであるレイチェルの啖呵のパワーが倍増するかたちになります（「ニックが貴方が認める女性と結婚したあとも貴方は私を思い出す。移民２世の私を……」）。監督によると、この対局が意味するものはそれだけではありません。８牌（ニック）をあえて渡すレイチェルの選択は「愛する者への自己犠牲」です。「レイチェルはアメリカ人だから家族の為の自己犠牲などできない」と決めつけるエレノアの偏見を破壊するゲームでもあったのでしょう。レイチェルが打った麻雀が立証するものは様々です。彼女のアイデンティティ、強さ、自己犠牲、財産目当てではない真の愛情、そして、巧みな戦術。劇中、レイチェルの親友パク・リンが「パワーを示せ」と助言しますが、名家を率いる為に必要な交渉・戦術、そして最終的にはある種の協力をレイチェルは麻雀で示すのです。その後のエレノアの心変わりは、もしかしたら言葉だけでは起きなかったかもしれません。彼女の初登場シーンではパーティーを仕切るスキルが印象的に描かれましたが、麻雀バトルではレイチェルの能力が描写されます。「麻雀は人生に重要な能力を授ける」というのは双方の母の教えですが、まさにそのレッスンを実証する対局だったのです。
字牌が意味する２人の立場
Youtuberのカントニース・コナー氏がレイチェルとエレノアの和了形を再現しています。画像はレイチェルのもの。ストレートフラッシュにあたる一気通貫を索子で揃えています。ゆえに索子の８を捨てる選択は有り得ませんでした。混一色も乗ってますね。対するエレノアは三暗刻、対々和、混一色、役牌で倍満？
『クレイジー・リッチ！』は、このシーンの為に麻雀の専門家を雇ったそうです。相当緻密に作られてるわけですが、あえてルールや戦況の説明演出はなされません。映画を観て疑問を持った人には、色々調べてアジア文化を知ってほしい、そしてアジア文化について会話してほしい……そんな願いが込められているのがこのバトル。ということで、彼女たちが最終的に揃えた字牌についても深読みしてみましょう。エレノアは「發」牌と赤文字の「中」牌を持っています。前者は中国語で「豊かになること」を意味する漢字、後者はそのままチャイニーズ。「發」と「中」、裕福と中国が合わさり、まさにクレイジー・リッチ・アジアンな字牌。一方、レイチェルは「北」牌を揃えています。なぜアメリカを表す「西」ではなく「北」なのか。中国において北部は貧しい地域とされがちな為、ハイライトのセリフ通り「移民ルーツ」の強調と考察されています。さらにReal Sound記事で紹介した座席を思い出しましょう。座席と字牌的には、エレノアとレイチェルの対局は「アジアの豊かな華人vsアメリカの北部ルーツ移民」構図に着地します。深読みしすぎかもしれませんが、ハイライトのレイチェルのセリフに繋がっていきます。
最後に、この物語のテーマと麻雀シーンの重要性。チュウ監督は、映画『クレイジー・リッチ！』をこのようにまとめています。
「この映画は、レイチェルがアジアに行ってドラゴンを見つける旅の物語。彼女はより強くなり、自身のアイデンティティに自信を持つ。麻雀シーンは、ついにドラゴンが降臨する場面だ」
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麻雀シーンの座席や８牌の意味のほかに、ホワイトウォッシュ回避のため原作者の報酬が１ドルに設定された経緯、そして「男女のラブロマンス」であると同時に「２人の女性の物語」でもある旨を紹介しました。
