トランプ派も賞賛したレディー・ガガのアンチ分裂ハーフタイムショー
第51回スーパーボウルで行われたレディー・ガガのハーフタイムショーが話題だ。民主党派のみならず、共和党議員やトランプ支持者まで政治的観点から賞賛している。もしかしたら、ガガが願ったのは「アンチ・トランプ」ではなく「アンチ党派分裂」だったのかもしれない。
【目次】
1.民主党派にも共和党派にも好評
Incredible performance by @ladygaga #PepsiHalftime #SuperBowl
— Ivanka Trump (@IvankaTrump) 2017年2月6日
レディー・ガガのハーフタイムショーをヒラリー・クリントンとジョー・バイデンが褒めたことは想定内だ。この2人はともに民主党議員であり、同党の支持者であるガガと相互支援の関係にある*1。民主党議員が民主党派スターを賞賛する図に希少さは感じられない。
特異だった反応は、共和党議員や同党派の著名人たち、そして保守派メディアやトランプ支持者たちもガガを賛美したことだ。賛辞を表明した著名人は、まずイヴァンカ・トランプ。共和党から大統領選に出馬したマルコ・ルビオ。共和党上院議員ベン・サス。BLM運動をKKKと称したFOXキャスターの共和党支持者トニ・ローレン。そしてトランプ政権の主席戦略官スティーブ・バノンがかつて会長を務めていたBreitBart Newsが絶賛記事を投稿している。一方で、ガガのパフォーマンスを政治的観点からネガティブ評価するリベラル・メディアも存在する。何故、トランプを度々非難し、民主党サポーターとして知られるガガが保守派およびトランプ派に褒められ、一部リベラル派に苦言を催されたのか? 保守派メディア、リベラル派メディアの反応をそれぞれ紹介しつつ考察する。
2.保守派:政治性無し
ガガのハーフタイムショーが共和党派およびトランプ派に賞賛された理由。それは「政治性の無さ」である。マルコ・ルビオやトニ・ローレンはこの観点から賛美を贈っている。元々、ガガのハーフタイムショーは「アンチ・トランプ要素」が予想されていた。トランプ支持者の中にはボイコットを呼びかける者や、パフォーマー交替の嘆願書を提出した者も居たようだ。熱心な民主党サポーターとして知られるガガは、ドナルド・トランプ大統領を幾度も非難してきた為、ハーフタイムショーでも反政権をアピールすると考えられていたのである。それが一転、フタを開けるとショーの構成は愛国歌とヒット曲メドレー。目立ったアンチ・トランプ表明、それどころか政治的要素自体が見当たらなかった。このサプライズによって「ショーから政治性を無くした選択」が保守派に好意的に受け取れられたのである。『トランプ・ファンはレディー・ガガが政治的声明を出さなかったことに安堵した』と題された記事によると、ガガが愛国歌を歌ったことも彼らの好意的評価に繋がったようだ。
保守派に属する新興メディアでも好評が散見される。保守派バイラルメディアIndependent Jounal Reviewは「思想が異なる者たちをつなげアメリカを笑顔にした」と肯定的。BreitBartは「自信あるアーティストにしか出来ない、熟練技巧に満ちた、非常に魅力的なパフォーマンス」と絶賛した。前年ハーフタイムショーでブラックパンサー(を模したダンサー)を登場させたビヨンセ、ワシントン女性運動で反トランプ演説を行ったマドンナを非難し、このようにまとめている。
要するに:異なる政治的思想を持つ1億人以上のアメリカ人を一つにする最善の方法は、政治的ステートメントを行わないことです
では、本当にガガのショーに政治性は無かったのか? 多くの左派メディアの報じ方は異なっている。
3.リベラル派:隠れた政治性
いわゆるリベラル側に属するメディアのネガティブ評を紹介する。
Variety『レディー・ガガはヒット曲と景色によって安全をとった』
2017年の数週間に影響で、ガガのパフォーマンスは2008年のように見えた
最悪の場合、ガガは自ら構築した彼女の芸術の政治的サブテキストを理解されることなく商品化してしまった
LA Times『レディー・ガガは重要なことを言う機会を逃した』
ガガは2017年の現実に直面することなく過ぎ去った
音楽パフォーム自体の批評だが「政治性の無さ」への失望も散見される。ただし、多くのリベラル・メディアはショーから「隠れた政治性」を探り肯定記事を出している。『ガガは重要なことを言う機会を逃した』と書いたLA Timesのライターも、のちにこんな記事を投稿した。『レディー・ガガのハーフタイムショーは貴方の期待にかなう政治的なものでした』。
リベラル派メディアに注目された「政治性」は、ガガが序盤に歌った愛国歌メドレーである。こちらに詳しいが、2曲目にあたる『This Land is Yours』には(ガガは歌っていないが)「我々を阻む壁」といった歌詞があり、アンチ・トランプ運動で歌われることもあったようだ。その為、壁建設や移民制限を計画する現政権への反対表明を意味する選曲なのではないか、と考察されている。又、ガガの『Born This Way』によってハーフタイムショー史上初めて「トランスジェンダー」という言葉が発せられた。セクシャリティの多様性を肯定するこの曲をアンチLGBTとして知られるマイク・ペンス副大統領が座する場で歌ったことを喝采するリベラル派メディアも多い。
ガガのハーフタイムショーを政治的観点から非難するリベラルな有名メディアは全体としては少ないだろう。ただし、英The Guardianはショーのレビューを“heavy on the hits, light on the politics”と題している。Teen Vogueの記事題は『もし貴方がガガのパフォーマンスが政治的ではなかったと思うならポイントを見逃しています』、Buzzfeedは『よくよく見ると、ガガのハーフタイムショーはとてもとても政治的です』。後者2つは「ガガのショーに政治性は無かった」と考える読者が多いことを想定している。やはり、ガガのハーフタイムショーが予想より政治的要素が少なかった印象は保守、リベラルともに共通しているだろう。だからこそ結果的に保守派とリベラル両方から肯定の声が多かったとも言える。先述した保守派新興メディアIJRの記事は「微妙に(反トランプ的な)政治要素はあったが」と付け加えながらもショー全体を褒めている*2。では、ガガ自身はどのようなヴィジョンで挑んだのか? 彼女のコメント郡から探っていきたい。
3.レディー・ガガ:アンチ党派分裂
実は「アンチ・トランプ無しのハーフタイムショー」は事前に予告されていた。レディー・ガガ自身がラジオで「大統領に対すること、そして対立を起こすようなことは語らない」と明言しているのである*3。理由についてこう語っている。
私は、ショー当日、人々を共にさせる為に声をあげたいと思っています
ですが、対立を起こす発言は状況を悪化させる
私はそれを国に望んでいません
一方、記者会見ではショーの目標をこう掲げている。
私はハーフタイムショーで、私や私のファンと異なった考えを持つ人々に「私たちのハートは同じです」と訴えたい
彼女の言う「私や私のファンと異なった考えを持つ人々」には、恐らく共和党派やトランプ支持者が入る*4。ここで1つのことが思い浮かぶーーレディー・ガガは、ハーフタイムショーで「民主党派と共和党派で分裂しゆくアメリカ人」を融和に導こうとしたのではないか? 彼女は、大統領選挙の最中から各政党支持者間の分裂の問題について発信している。
ある政党を支持する者たちが対立政党の支持者へ敵意をつのらせ、党派によって人々が分断されていく現象は「感情的党派分裂 (Affective Partisan Polarization) 」と呼ばれる。レディー・ガガは、この「感情的党派分裂」に2016年大統領選挙の頃から警鐘を鳴らしていた。それも、その警告が放たれた舞台はヒラリー・クリントン支援集会。そこで民主党支援スピーチを行った彼女は、ヒラリーを「鉄の女」と賛美し、トランプを差別的だと糾弾した。そして終わり際にこう語った。
このメッセージを広げることは重要です
私たちはトランプ氏の支持者を憎む必要はない
私たちが本当の、本当のアメリカ人であるならば、彼の支持者を敵と見るのではなく仲間と見るべきです
ガガは民主党派で埋まる会場で「トランプ支持者への敵視」への反対を訴えたのである。「重要なメッセージ」として。2010年代のアメリカは「党派分裂」の傾向を年々強めている。例えば、ピュー研究所の世論調査において、対立政党の意見を「とても支持できない」とする解答が両党派の多数派となったのは2016年大統領選挙が初めてだという。「対立政党の意見はとても支持できない」とする解答は、90年代以降20%代でありつづけたが、2014年からの2年間で40%にまで増加した*5。
レディー・ガガは、前言通りハーフタイムショーに明確なアンチ・トランプ要素は挿れなかった。『This Land Is Yours』や『Born This Way』は「アンチ」と言うより、様々な人々への「肯定」だ。もしガガのハーフタイムショーに何かしらの「アンチ」要素があるとするなら「アンチ分裂」なのではないだろうか。言い換えれば、思想で分断する人々に対する「融和の促進」だ。大統領選の最中から党派分裂を問題視していたガガならば、この選択は不思議にうつらない。彼女は、ショーの目標をこのように語っていた。
私にとって、ショーはファンのためのものであり、普段はバラバラになっている人たちを一つにつなげるための場所です
私がアメリカを一つにできるかはわかりません
ショーが終わったらアメリカに尋ねないといけません
そして、ハーフタイムショーの最中、バラード『Million Reasons』を歌った際、こう尋ねた。
アメリカ、世界、気分はどう?
私はあなたたちの気分を良くするためにここにいます
私見:彼女の芸術
ハーフタイムショーは非常に大きな舞台だ。2010年代に放送された8回のスーパーボウルは『アメリカ史上もっとも多くの人に視聴されたTV番組』のTOP8でもある。*6。つまり毎年、沢山のアメリカ人がハーフタイムショーを見る。そのような大舞台で、レディー・ガガは「党派分裂するアメリカ人の融和」を志したと思われる。私はそんな彼女を尊敬する。そして、彼女の目標を大義だとも思う。
Variety『レディー・ガガはヒット曲と景色によって安全をとった』
ポップは気分を良くさせるでしょうが、芸術とは何か言うことを選ぶのです
レディー・ガガのハーフタイムショーは「政治性の無いショー」と認識されても不思議ではない程、ポップで楽しいショーだった。けれども、あのヒットメドレーを「メッセージが無い」 とするのは早急であるように思う。彼女は、ショーにおける「発信」についてこんな発言を残している。
ハーフタイムショーで何か発言するとしたら、それは今まで言い続けてきたことだけです
レディー・ガガの舞台に何らかのメッセージを求めるのならば、彼女の歌に耳を澄ませばいい。彼女の歌唱から政治性を見出すのも、希望を貰うのも、ノってただ踊るのも自由だ。それがポップ、そして芸術と呼ばれてきたものなんじゃないか。ガガは時に過激に、時にやさしく沢山の想いを歌ってきた。ハーフタイムショーで披露された楽曲群には「個性の肯定」、「愛することの哀しさと美しさ」、「音楽の楽しさ」、そんなものが詰まっていたと思う。それらのメッセージはきっと、オバマ時代でもトランプ時代でも変わらないのだろう。
いいショーだった。
参考インターネット資料
(すべて2017年2月11日受信)
WOW. Amazing.@ladygaga's #PepsiHalftime Show! 👏#SB51 https://t.co/z9vCKRBKkC
— NFL (@NFL) 2017年2月6日
レディー・ガガのスーパーボウル・ショー 政治性は? - BBCニュース
レディー・ガガ、ハーフタイムショーは「誰からも必要とされていない」と感じる人への愛だった(動画)
レディ・ガガと自由の女神~ニューヨークとトランプの闘い - messy|メッシー
「分裂したアメリカ政治を乗り越える方法」 by ジョナサン・ハイト、ラヴィ・アイヤー - 道徳的動物日記
クリントン氏選挙戦、締めにレディー・ガガさん登場「トランプ氏支持者との和解を」 写真11枚 国際ニュース:AFPBB News
Lady Gaga Super Bowl Halftime Show Review | Pitchfork
The Super Bowl was the top story in conservative media today.
Trump fans are majorly relieved Lady Gaga didn't make a political statement in her Super Bowl show
Lady Gaga Delivers Her Most Subversive Performance at Super Bowl
Lady Gaga's Super Bowl Performance Was a Far Cry from Beyoncé's 2016 Half Time Show
Lady Gaga Makes a Statement About America During Halftime Show—Just Not the One Anyone Expected
Commentary: Lady Gaga’s epic halftime show was just what the country needed – TheBlaze
Lady Gaga misses her Super Bowl moment to say something profound - LA Times
Lady Gaga's Super Bowl show was only as political as you wanted it to be - LA Times
The alt-right thinks Lady Gaga's Super Bowl performance was a satanic ritual | The Independent
Lady Gaga's Super Bowl Halftime Show Was Absolutely Political | Teen Vogue
https://www.nytimes.com/2017/02/05/arts/music/lady-gaga-super-bowl-halftime-review.html
https://www.nytimes.com/2017/02/02/sports/lady-gaga-halftime-super-bowl.html
Lady Gaga's Super Bowl performance: heavy on the hits, light on the politics | Music | The Guardian
Lady Gaga Says She Won't Mention Donald Trump During Super Bowl Show - News - Gaga Daily
If You Look Closely, Lady Gaga's Halftime Show Seemed Very, Very Political
Lady Gaga sings medley of hit songs at Super Bowl LI, steers clear of politics | Fox News
Lady Gaga Campaigns With Hillary Clinton FULL Speech in Raleigh, NC 11/8/16 - YouTube
How Trigger Warnings Are Hurting Mental Health on Campus - The Atlantic
List of most watched television broadcasts in the United States - Wikipedia
Ivanka Trump on Twitter: "Incredible performance by @ladygaga #PepsiHalftime #SuperBowl"
Ben Sasse on Twitter: "Thank you for non-politics half-time, Super Bowl."
*1:2016年、ガガは2016年大統領選挙でヒラリーを賛美するスピーチを行った。2015年、バイデンは2015年アカデミー賞でガガのパフォーマンスを紹介する役を担当。性的暴力に関するオバマ政権の政策を語るスピーチまで行った
*2:もちろん保守派に非難の声が無いわけではない。オルタナ右翼のスポークスパーソンとされるアレックス・ジョーンズは「悪魔主義的」と非難した
*3:Lady Gaga Says She Won't Mention Donald Trump During Super Bowl Show - News - Gaga Daily
*4:Facebook、Spotify上の調査では、ガガのファン層はかなり民主党支持者に偏っている Facebook’s ‘like’ button separates Democrats from Republicans - MarketWatch ,Republicans are from Nashville, Democrats are from Funkytown - latimes
*5:正確には調査が始まった1990年代後半以降、9.11後の数ヶ月間という例外を除いた場合。引用元のこちらに詳しい→ 「分裂したアメリカ政治を乗り越える方法」 by ジョナサン・ハイト、ラヴィ・アイヤー - 道徳的動物日記
*6:List of most watched television broadcasts in the United States - Wikipedia