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『スパイダーマン:ホームカミング』の悪役はトランプ支持者?

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 『スパイダーマン:ホームカミング』の悪役が「トランプ支持者のよう」と話題だ。Rolling StoneLA TimesVultureも、同作のヴィラン・ヴァルチャーをトランプ政権と絡める記事を出している。その理由には、今日のアメリカ世論の一部を形作る「怒り」が存在する。

【目次】

「怒れる白人」トゥームス

ヴァルチャーは、トランプに投票したように見える初のスーパーヴィラン

 引用元:Spider-Man: Homecoming’: Why Vulture Is a Great Villain

  「トランプ支持者のようなヴィラン」とはどのようなキャラクタだろうか? 白人至上主義のレイシスト? 『ホームカミング』でヴィランのヴァルチャーとなるエイドリアン・トゥームスは人種差別主義者ではない。差別的と言われる言葉を多少は使うが、アフリカ系女性と結婚しており、家族愛が強い*1。富裕層にも貧困層にも見えない、恐らくはミドルクラスのブルーカラー労働者。ヴィランになって違法武器商人で財をなそうと、国家転覆やアベンジャーズ殺害などの大きな野望は抱いていない。ーーつまり、『スパイダーマン:ホームカミング』の悪役であるトゥームスは「普通の人」だ。ジョンワッツ監督も彼を「普通の人(Regular Person)」だと公認している。では、何故「普通の人」が「トランプ支持者」的と言われるのか? エイドリアン・トゥームスは「エリート層に怒る白人労働者」なのだ

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 『スパイダーマン:ホームカミング』の悪役・ヴァルチャーとなるエイドリアン・トゥームスを紹介する。彼がヴィランになったきっかけは「大企業と政府による経済的打撃」だ。トゥームスはアベンジャーズが破壊した街の瓦礫撤去を行う救助隊だった。しかし、彼の仕事は唐突かつ強制的に奪われる。アイアンマンである大企業CEOトニー・スタークが政府と連携し、撤去活動ビジネスを一挙に引き受けたのだ。人や機材まで雇ったトゥームスは仕事を失い、スタークを恨むこととなる。自暴自棄となった彼は、未提出だった残骸から作ったハイテク武器を密売する犯罪者へと堕ちていく。富を得たあともトゥームスの被害者意識は冷めない。彼はスタークをはじめとしたアメリカのエリート層に怒りつづける。この「エリート層への怒り」こそが「トランプ支持者」と言われる所以となっている。

「怒れる白人」としてのトランプ支持者像

 『スパイダーマン:ホームカミング製作陣のコメントも参考にし、「怒れる白人」としてのトゥームスの概要をまとめた。

【「怒れる白人」としてのエイドリアン・トゥームス】

  • 大企業と政府に仕事を奪われたブルーカラーの白人労働者
  • 富裕層にも貧困層にも見えない恐らくはミドルクラス分類の労働者
  • エリート層や大企業に対する被害者意識が強い
  • 自分のような存在を気にかけないエリート層に怒っている
  • エリート層のようにお金と力さえあればもっと人生をコントロールできたと考えている
  • 成功するチャンスすら無かった機会不平等を憤っている

 ヴィランとしてのトゥームスを形成する大きな要素・「怒り」。彼の「怒り」は、トランプ大統領を当選させる「鍵」となった(と語られる)投票者層の像と重なるところが多いのだ。 大統領選挙直後、Forbesはトランプ勝利の要因は「ミドルクラス白人の怒り」だと説いている。

 今回の戦いでは、ニューディール政策の時代以降に行われたどの大統領選よりも、社会の「階級」が大きな要因となった。トランプの“反乱”は主に、グローバリゼーションや移民、(進歩主義の)文化的エリート層の傲慢さに対する中流層、労働者層の恐怖心に乗じたものだった。そして、トランプの選挙戦はボストンの地元紙ボストン・グローブに掲載された記事の筆者が指摘した「取り残された人たち」に負うところが大きい。この層は、評論家たちが言う「嘆かわしい人たち」かもしれない。そして、彼らは本当に怒っている──収入は減り、平均寿命も短くなっている。こうした有権者層は、多くが「裏切られた」と感じているかつての民主党支持者だ。中流層の大半を占める人たちでもあり、投票日に起きたことの大半を説明するのは、彼らの怒りだ。

 トランプにサプライズ当選を与えた「怒れるミドルクラス白人たち」The New York Timesによると、14年大統領選挙でオバマに投票した白人労働者層の4人に1人が16年大統領選でトランプまたは第三政党候補に票を投じた。この投票者層の像は『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』 にルポルタージュ形式で詳しく描かれている。グローバリゼーションや機械化により、大企業は工場を海外に移し、アメリカの製造業は国内雇用を減少させていった。特に製造業中心に回っていた地方は明らかに豊かさを失い続けている。NY郊外においても、企業が最低賃金以下で雇える不法移民が国民の仕事を奪っていく。今まで、アメリカのミドルクラスは高卒でも経済的に成功できた。今じゃどんどん生活が苦しくなる。一方、大企業やエリートたちはどんどん豊かになる格差社会こうした状況により「ミドルクラスの白人」が「不安」を抱えたそこに現れたのがドナルド・トランプ大統領候補だ。トランプは力強く主張した。「あなたがたのような庶民を苦しめる元凶は傲慢なエスタブリッシュメントだ」「政治献金に縛られない私が大統領になればすぐ解決できる」「私はあなたたち庶民の味方です」。多くの地方、郊外の白人労働者層が「自分たちを見てくれた大統領候補」としてトランプに熱狂した。同時に、トランプが叩くエスタブリッシュメントへの「怒り」も強めていったと思われる。

 以上が「トランプ当選の鍵になった」と言われる「怒れる白人」像である。「エリート層への怒り」、「白人労働者」、「経済的不安」といった要素が『スパイダーマン:ホームカミング』のエイドリアン・トゥームスと一致している。ゆえに、トゥームスは「トランプに投票していそうなキャラクタ」と複数メディアから指摘されているのだ。

トゥームスはこう語る。「スタークのようなリッチで力のある者は我々を気にしない」。トゥームスの同僚の1人はこう言う。(社会の)システムは壊れている。聞き覚えがあるだろうか? 2016年大統領選挙でトランプとバーニー・サンダースが延々繰り返した言葉だ。彼らは述べ続けた。自己利益にしか関心の無い政治エリートと官僚によって、アメリカは転覆しようとしているーー。《中略》選挙活動中、トランプはトゥームスのような人々を助けるポピュラリストのように振る舞ったのだ。

 引用元:The secret politics of Spider-Man: Homecoming | Bleader

世論を反映した「普通の人」トゥームス

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 『スパイダーマン:ホームカミング』を監督したジョン・ワッツは、本作で「普通の人」のヴィランを描きたかったという。彼にとって、MARVEL映画はビリオネアや神など「エリートたち」の物語ばかり供給していた。ワッツは疑問に思ったーー「普通の人( Regular Person )はこれらのイベントに対してどう思っているんだ?世論( Public Opinion )はどこにある?」*2ーーこうして、「普通の人」がヴィランとなる物語が生まれた。勿論、この「普通の人」とは、マイケル・キートン演じるトゥームスのことだ。トゥームスを語るにおいて「世論」という言葉を用いたワッツは、今日のアメリカ社会の「一つの世論」もトゥームスに反映させたと言えるだろう。「トランプ支持者」的と言われるトゥームスの反エリート思想は、2016年大統領選で異例の躍進を見せた民主党バーニー・サンダース支持層とも類似している。

ことが違えば、ヴァルチャーはスーパーヒーロー映画の主人公になれた可能性がある。考えて下さい。ここには自ら這い上がった「負け犬」がいます。彼は、困難に陥ったにも関わらず、家族を幸せにするために独創性と知略を発揮した

 引用元:How 'Spider-Man: Homecoming' Created a Sympathetic Trump-Era Supervillain - Rolling Stone

 『スパイダーマン:ホームカミング』のヴァルチャーことトゥームスは複雑なキャラクタだ。確かに違法行為を繰り返すヴィランだが、その成り行きには同情させる点があるし、悪人とは言い難い。視点を変えれば「ロビン・フッドのようなヒーロー」にも見えてくるかもしれない。同じくして、トゥームスとの類似性を語られるトランプ支持者たちもそれぞれ複雑性を持つのだろう(人間誰しも一言では言い表せない多面性を持つはずだ)。「差別主義者」と断じられることもあるトランプ支持層だが*3、『ルポ トランプ王国』著書・金成隆一氏は「トランプ支持者たちは決して私たちに理解できない他人ではない」と提する。このルポルタージュで描かれるトランプ支持の人々は、トゥームスのように一言では表しきれないミドルクラスの人々だ。金成氏は、ラストベルト及びオハイオ州東部で出会ったトランプ支持者たちをこのように綴っている。

ラストベルトの人々の悩みは、日本の人々の悩みと陸続きに見えた。グローバル化する世界での、先進国のミドルクラスという意味で共通点がある。トランプ大統領を誕生させた支持者たちは、決して私たちに理解できない他人ではない。

 引用元:ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書) 

多くが勤労者で、誠実で、思いやりのある人々だった。

 引用元:ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)  

参考文献 

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
 

『スパイダーマン:ホームカミング』悪役ヴァルチャーは“裏トニー・スターク”、切実すぎる設定が判明 | ORIVERcinema 

衝撃のトランプ勝利、要因は「裏切られた」白人中間層の怒り | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

'Spider-Man': Check out the first photos of Michael Keaton as Vulture

The secret politics of Spider-Man: Homecoming | Bleader

Is the Villain in 'Spider-Man: Homecoming' Donald Trump or Bernie Sanders? - Acculturated

How 'Spider-Man: Homecoming' found a supervillain for the Trump era in Michael Keaton - LA Times 

Cultural Anxiety, Not Economic Anxiety, Drove White Working Class Voters to Trump - The Atlantic

A new theory for why Trump voters are so angry — that actually makes sense - The Washington Post

*1:映画序盤、「インディアン」という言葉を用いて「今はネイティブ・アメリカンと言うんですよ」と注意されている。「インディアン」呼称は人種差別的とされる傾向がある

*2:How 'Spider-Man: Homecoming' found a supervillain for the Trump era in Michael Keaton - LA Times

*3:民主党大統領候補ヒラリー・クリントンは、16年9月マンハッタンの資金集めパーティーにおいて「トランプ支持者の半分は惨めな人々」と発言。「惨め」は人種&性&セイクシャルマイノリティ差別主義者、外国人嫌い、イスラムフォビア等を意味した