『この世に私の居場所なんてない』 世界からくだらないと扱われる私の大切なもの

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サンダンス映画祭審 査員対象受賞作 Netflix独占配信

 その日の主人公は嫌なことだらけだった。看護助手をしている治療施設で、患者の老婆が抗議運動をする黒人のニュースを見てこう言った。「あいつらがアメリカを蝕んでる、あいつらのデカいチンコは絶対に私のマンコには挿れさせないよ」。そして老婆は死んだ。遺族には最後になにか言っていたか訊かれた。主人公は何も答えなかった。仕事帰りにバーで読書していたら他の客にネタバレをされた。家に帰ったら庭に犬のフンがあった。「犬のフン禁止」と標識を出しているのに。そして家に入ったら泥棒が入っていた。警察を呼ぶも、盗られたものはPCと亡き祖母の銀食器だけ。警察が扱う事件としては小さな被害だった為、捜査が丹念に扱われる気配は無かった。刑事は主人公に対して戸締まりはちゃんとしていたか確認してきた。警察の職務としては当然かもしれないが、主人公には不満が残る。つらい想いをした主人公は友人に家に出向く。そして友人の幼い娘に絵本を読んでいる時、泥棒の話をしてしまい、女児の前で泣いてしまう。友人は優しかったが、こう諭してきた。「あなたより不幸な人は沢山いる」。確かにそれは事実だろう。事件を担当した刑事も同様のことを言ってきた。でも、主人公にとって、おばあちゃんの銀食器は大切なものだったのだ。

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グラミー賞主要部門の投票システム:音楽ジャンル別の格差疑惑

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 グラミー賞の「人種差別」疑惑への批判は、ここ3年の最優秀賞アルバム部門の話題を中心に熱を帯びた。アワードの幹部や会員に差別バイアスがあるかはわからない。しかしながら、主要4部門の投票システムにおいて「音楽ジャンル」別に格差がある可能性がある。

【目次】

  • 1.物議をかもした3年間の最優秀アルバム部門
  • 2.ジャンル別に格差ある投票システム 
  • 3.投票システムからのバイアス考察と改善案
  • 補足:不透明な審査委員会の不正疑惑
  • おわりに
  • 参考資料  

1.物議をかもした3年間の最優秀アルバム部門

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トランプ派も賞賛したレディー・ガガのアンチ分裂ハーフタイムショー

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 第51回スーパーボウルで行われたレディー・ガガのハーフタイムショーが話題だ。民主党派のみならず、共和党議員やトランプ支持者まで政治的観点から賞賛している。もしかしたら、ガガが願ったのは「アンチ・トランプ」ではなく「アンチ党派分裂」だったのかもしれない。

【目次】
  1. 民主党派にも共和党派にも好評
  2. 保守派:政治性無し
  3. リベラル派:隠れた政治性
  4. レディー・ガガ:アンチ党派分裂
  5. 私見:彼女の芸術

1.民主党派にも共和党派にも好評

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母なる証明 破壊される母の偶像

 映画『母なる証明』は現実社会が抱く“母親偶像”を壊そうとする。しかしながら、映画の中では“母親”の持つ息子偶像が変容してゆく。 いわば現実と作中、合わせて2つの「母の偶像」に亀裂が入るのである。

【目次】
  1. 破壊される「社会」の「母親」偶像
  2. 崩壊しゆく「母親」の「息子」偶像 

1.破壊される「社会」の「母親」偶像

 『母なる証明』は社会が抱く「母親偶像」を破壊する映画だ。おそらく、韓国ではより一層のインパクトを持つ。主人公である母親を演じる女優は韓国社会で「国民の母」と呼ばれ尊敬されるキム・ヘジャその人だからだ。ヘジャは「韓国ドラマ・ファンで見たことが無い人はいない」と言われるほど多くの母親役を演じてきた。韓国調査会社の『もっとも好きな芸能人ランキング』では首位を獲得している*1。彼女の笑顔が印刷された『まごころをこめたキム・ヘジャ弁当』は韓国のコンビニ弁当の代表格としなっている。まさしくキム・ヘジャは韓国における「国民の母」なのだ。「国民の母」を主演に据えた『母なる証明』は、韓国社会において「母の偶像」みずからが「母の偶像」を破壊するインパクトを持つ。

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*1:リサーチ専門機関韓国ギャロップの調査。2位は「国民の父」と呼ばれる男優チェ・ブラム。ヘジャとブラムは22年間つづいたドラマ『田園日記』で夫婦を演じていた。「国民夫婦」が頂点に立ったかたちとなる '국민부부' 김혜자-최불암, '한국인이 좋아하는 탤런트' 1-2위 :: 네이버 TV연예

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神クソ・スター・アワード2016

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 神クソとは人間讃歌である。「一般的には誰も褒めないネタだが爆笑」……そんなピースフルで最上な賛辞と言えよう。神クソ・スター・アワードとは、社会やマスメディアが決して高尚とはしないスターたちの神クソ言動を仰ぎ、生命の奇跡に感謝する祝祭のようなアワードである。怒涛の2016年、表彰部門は【偉人賞】、【ツイッター・ポエトリー賞】、【LOVE WIN賞】など多岐に渡った。また、今年度は審査を厳格にした為、ワーストも設けた。

【ヒューマニティ賞】マライア・キャリー

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( 愛・地球博 )

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2016年 執筆記事一覧

 今年、メディア媒体で書かせていただいた記事まとめです。

 THE FASHION POST 様にて、2016年を象徴するセレブ・トピック記事に携わらせていただきました。ディカプリオの日常エピソード、ビヨンセとニッキーのレッドロブスターな関係等。同媒体様の2015年度まとめ記事はこちら

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バッドママ / 大ヒットしたニッチな王道コメディ

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 アメリカで大ヒットしたコメディ映画『バッドママ』がNetflixでリリースされた。題名通り「バットな母親」をテーマにしたR指定コメディだが、この作品のヒットには少し特殊な面が存在する。本記事では『バッドママ』の映画産業におけるニッチな商業的成功、そしてその希少さに反しメジャーな作品構成について解説する。

【目次】
  1. ニッチなのに大ヒット
  2. メジャーな映画構成

1.ニッチなのに大ヒット

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