『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』なにが彼を殺したか

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 開始早々、それは起きる。加害者は傷つき孤独な、金のなさそうな青年。一方、被害者は今なお最高のラグジュアリーを誇るブランドの創業デザイナーで、御殿というに相応しいバブリーな別荘で優雅に朝を迎える。要するに、殺人事件の被害者ジャンニ・ヴェルサーチと加害者アンドリュー・クナナンは対極に位置していた。貧乏な若者がスペシャルで裕福な年長者を射殺。『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』は、開始早々、残酷なほどに2人の格差を見せつけていた。ただし、アンドリューが暗殺に出る前に寄った公衆トイレで、その格差の均衡はすこしだけ揺らぐ。その汚い便所にはこんな落書きがあった。

“Filthy Faggots”

(汚ねえホモ野郎) 

 そこは1997年アメリカ。ジャンニとアンドリューは、厳しい差別に遭う男性同性愛者としての身分をともにしていた。

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2019年メディア寄稿集

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2019年のメディア寄稿リストです。

ご依頼など、なにかございましたら下記メールアドレスにご連絡ください。

tatsumijunk@gmail.com

各媒体プロフィールページ

CINRA.NETELLE Japan, FUZEReal Sound, 文春オンライン

DJキャレドの音楽の根底にあるものーーこれまでの人生と家族をテーマにした“原点回帰”の最新作 (Real Sound)

DJキャレド『Father Of Asahd』を紹介しました。ビヨンセやビーバーにマローンやカーディも加わって相変わらずなオールスターゲーム&サマーアンセム集ですが、今回ゴシップ話題は少なめ。ルーツとしてのジャマイカや"コラボの真髄"に立ち返る「原点回帰」アルバムに

チェインスモーカーズとのコラボで知られる歌姫、ホールジーが「ミレニアル世代の声」となった理由を辰巳JUNKが解説 (Rolling Stone Japan)

Rolling Stone Japan vol.6に寄稿したうちのホールジー紹介記事が公開されました。彼女が代表するUSミレニアル世代の基本的イメージについても今一度解説。ジャンル・ブレンディング作風、「私らしさ」主義、クィア性の受容、社会意識など「やらなければいけないことが、歌われなければいけない歌があります」

Vampire Weekendを紐解く6つの視点 オロノ、角舘健悟らが綴る (CINRA.NET)

『Vampire Weekendを紐解く6つの視点』にコメント「エズラ・クーニグ、カルチャーヒーローとしての肖像」を寄せています。新作"『Father Of The Bride"ふくめたVW作品と『ネオヨキオ』を軸にエズラが引用した日本文化を紹介、その批評的な作風を考察

『Guava Island』は“資本主義と芸術”の物語に C・ガンビーノが活動終了を前に伝えるもの (Real Sound)

Amazon映画『Guava Island』コラムを書きました。ドナルド・グローヴァーによるチャイルディッシュ・ガンビーノ・プロジェクトも終わり間近ということで、本人の思想や信条が伝わる「資本主義とアート」の物語。『This Is America』は翻案によって更に広義な作品に。そしてコーチェラで紡がれた追悼と継承の言葉……

Solange / WHEN I GET HOME | ソランジュ | (The Sign Magazine)

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映画とTVの融合と『ビッグ・リトル・ライズ』、メリル・ストリープ (TIME Magazine)

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コメント:アメリカの映画とTVドラマの距離感にまつわるTIME記事のメモです。内容をかいつまんでおり個人的解釈・文体も入れてるので、資料にはしないほうが良いです。

 2017年、HBO『ビッグ・リトル・ライズ』により「映画は芸術/TVは格下」といった見方は消滅した。オスカー女優のリース・ウィザースプーンニコール・キッドマンが企画を立ち上げて製作・出演したこのドラマのシーズン2には、アカデミー賞最多ノミネート数を誇る──つまりはアメリカ映画界が誇る最高の俳優──メリル・ストリープがキャスティングされている。こうした映画スターのTV出演は、まったくもって珍しいものではなくなった。2019年アカデミー賞で主演部門を受賞したラミ・マレックオリヴィア・コールマンはTVドラマで有名になった役者だ。2度目の助演男優賞を得たマハーシャラ・アリの姿はHBO『トゥルー・ディテクティブ』で確認できるし、同賞の常連名優エイミー・アダムスサム・ロックウェルミシェル・ウィリアムズもTV仕事に就いた。極めつけには、hulu『Catch-22』におけるジョージ・クルーニーのドラマ復帰の報は大した話題にならなかった(※クルーニーはTVドラマ出演者から映画スターへの「成り上がり」代表格とされてきたオスカー俳優)。

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ガンビーノとカーディBのリッチ・コンセプト リベラル・ポップはMoney Moves ?

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 グラミー賞受賞につづきコーチェラ・フェスティバルのヘッドライナーも務めてイケイケ状態なチャイルディッシュ・ガンビーノさんがadidasとコラボ・スニーカーを出したのですが……

 スニーカーは3点とも“ほつれ”が施されたダメージド的加工がポイント。ガンビーノの声明は以下。
「リッチとはコンセプトだ。このプロジェクトでは、自分自身の足でいかにストーリーを語るか考えてほしかった。価値を決めるのは、着ているものではなく、その人それぞれの経験だ」 
 “Rich is a concept” なる第一声は『Guava Island』で彼が発した “America is a concept” と被さっています。後者についてはReal Soundで紹介しましたが、映画にしてもadidasコラボにしても「資本/マネー主義へのアンチテーゼ」と受け止められます。しかしながら、気になる点は、そもそもファッションにおけるダメージドやユーズド加工は「金持ちの贅沢品」とされてきたことです。「労働階級が履きつぶしたようなスニーカーやジーンズをわざわざお金を払って買う行為」こそヴァニティなラグジュアリーと言われたわけで。その代表格であるSaint Laurentは現在も汚れ加工されたスニーカーを販売しており、5万円はくだらない、10万円近い価格設定が並んでいます。ガンビーノのadidasコラボは1万円程度の価格設定ですが、それでも「それなりのお金を出してダメージド加工された商品を買う行為」自体はラグジュアリー・ブランドと変わりはない。
 「ラグジュアリーの象徴」とされてきた「ダメージド加工」を「アンチ・ラグジュアリーなメッセージ」に転換させるスターと大企業のコラボ商品。なんだか、これこそ「リッチとはコンセプト」という言葉の本懐な気がするわけです。ビッグなプラットフォームで言葉巧みにいいかんじのメッセージ(つまりコンセプト)を発信すれば、憧れそして仮想敵としての「富」の概念はグルグルと回すことができる。ケチをつけるわけではないんですが、ダメージド・デザインの普及を感じさせるとともに思想”トレンド”も考えさせる事案だなぁと。 もうひとつ、キャピタリズム関連の"トレンド"を感じさせるニュース。ガンビーノと同じくナンバーワン・ヒットとグラミー賞を手にして絶好調なラッパー、カーディBが大型ビューティー・イベントBeautyconでトークショー。彼女のキャラクターに関してはRolling Stone Japanで紹介しましたが、ストリッパーからの成り上がりキャリアを活かした「スラング連発の明け透けマネートーク」がヒットしたセレブリティでもあります。実際、このトークショーのテーマは彼女の代表曲『Bodak Yellow』からの引用 “Making Money Moves” 。「なにを言われようと稼ぎつづける」と主張をつづけるカーディですが、ここでも歯に衣着せぬ物言いで「人気ブロガーの技を盗む」「実家住まいを恥じることない、家賃分を貯金できる」などアドバイスしていますね。そして、このトークショーの聞き役となったBeauty Con CEOモジュ・マダラは、印象的なイントロデュースを発信してます。
「『ビューティコン』にはここ数年、“美”を再定義したい人々の多様な文化が集結してきた。次のステップは、金銭的なリテラシーを知ること」
 ある意味カーディ以上に明け透けなような……。うがった見方をすると「人種やら体型の多様性ブームだったけど、これからはお金関連が来る!」みたいなビジネス・トレンド宣言とも受け止められます。もちろん、単純に「多様性はかつての流行」としたわけではなく、フィナンシャル・リテラシーこそインクリュージョン促進やセクシズム解消を進めるにおける重要な一歩、という意味合いが強いのですが。このシフト・チェンジにおいて「格差社会におけるサバイバル術をリアルに伝えるカーディB」がまさに持ってこいなセレブリティであることは言うまでもありません。

 現実問題、アメリカにおける若年層の悩み事の筆頭には「経済環境」があがりがちですし、とくにミレニアル世代の白人は親世代より稼げない「燃え尽き世代」と言われます。ワシントンにおいても、2016年大統領選挙では社会民主主義カラーのバーニー・サンダースが人気を博し、トランプ政権期はアレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)が大人気。このAOCは2019年「ソーシャル・ジャスティスと経済・環境の正義をつなげる」要旨の演説かましたわけで「多様性の次は金銭的リテラシー」と語ったBeautyCon CEOはリベラル若年層の世相を読んだと言えるでしょう。ガンビーノは「アンチ・リッチな文化系」、カーディは「格差社会をサバイブする荒くれ者」みたいなイメージで、一見交差しないように思えますが、両とも「経済問題意識が強まるリベラル時勢」を象徴するスターかもしれません。

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チャイルディッシュ・ガンビーノ『Guava Island』の色と服

【※ ネタバレが含まれています】

 

 ついに公開された映画『グアヴァ・アイランド(Guava Island)』。ラッパーとしてのペルソナ、チャイルディッシュ・ガンビーノのキャリアの終わりを「死」と表現していたドナルド・グローヴァーですが、その終焉を飾るにふさわしいフィルムとなっております。50分たらずの短い物語のなか、非常に重要なテーマとなっているのが色彩ということで、取り急ぎ衣装にまつわる所感を書きました。

 

 リアーナ演じるコフィによるモノローグにあるように、7大陸の神々は「青色」の愛、そして「赤色」の争いを創造しました。このカラー設定は主題として一貫しており、劇中にはそのままレッドと名づけられた資本家が登場します。あえての神”々”ということで、一神教であるアブラハムの宗教(ユダヤ教キリスト教イスラム教)の「安息日」は存在せず、島の人々は休みなくレッドに搾取される働き詰めの日々を送っています。

 

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アートなホラー映画全盛期のハリウッド事情/ドラマ映画の凋落

 2010年代末、アメリカ映画でホラーが最も熱いジャンルになっている。ヒットする上にアート映画としての評価も上々なのだ。2017年から2019年3月にかけて、boxoffice週末興行で首位を獲得した実写オリジナル7作品のうち5作がホラージャン*1。なかでもジョーダン・ピール監督『ゲット・アウト(2017)』は、予想外の大ヒットを記録したのみならず、Rotten Tomatoesクリティーク・スコアで100%近い数字を獲得、アカデミー脚色賞の受賞に至った。この快挙がランドマークとなり『クワイエット・プレイス(2018)』『へレディタリー/継承(2018)』など「セールスと評価を両立させたホラー・ジャンル快進撃」がつづいている。2019年3月にはピールの新作『Us』も大成功スタートを切り、正真正銘「アーティスティック・ホラー」時代が花開いた……では、一体なぜ?

*1:続編、スピンオフ、リブード、リメイクを除外した完全オリジナル実写作品の計上 https://twitter.com/davidehrlich/status/1109178173739200514 

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