チャイルディッシュ・ガンビーノ『Guava Island』の色と服

【※ ネタバレが含まれています】

 

 ついに公開された映画『グアヴァ・アイランド(Guava Island)』。ラッパーとしてのペルソナ、チャイルディッシュ・ガンビーノのキャリアの終わりを「死」と表現していたドナルド・グローヴァーですが、その終焉を飾るにふさわしいフィルムとなっております。50分たらずの短い物語のなか、非常に重要なテーマとなっているのが色彩ということで、取り急ぎ衣装にまつわる所感を書きました。

 

 リアーナ演じるコフィによるモノローグにあるように、7大陸の神々は「青色」の愛、そして「赤色」の争いを創造しました。このカラー設定は主題として一貫しており、劇中にはそのままレッドと名づけられた資本家が登場します。あえての神”々”ということで、一神教であるアブラハムの宗教(ユダヤ教キリスト教イスラム教)の「安息日」は存在せず、島の人々は休みなくレッドに搾取される働き詰めの日々を送っています。

 

 衣装の「色」が象徴的なのが、ガンビーノ演じるダニが『This is America』を踊るシーン。自動車工場の労働者は全身「赤」の服に身を包む。一方「働きづめの搾取」に従わずアメリカへの幻想にも否定的なミュージシャンである主人公はショートパンツのみ「赤」色。「赤」の支配に従属していない身を感じさせる一方、ある意味この色が示す「争い」を(支配者に対して)行っているとも読めます。

 

 自動車工場が「赤」に支配される一方、女たちが働く洋裁工場は島における愛を指す「青」色。そもそもこの色は島の宝である蚕に由来します。ちなみに、コフィが着るワンピースには青、ピンク、水色、オレンジ、黄色がまざる虹のようなストライプ模様で、争いを模す「赤」は無し。

 

 争いの「赤」のショートパンツを履いていたダニですが、字義どおり決死の音楽フェスティバルでは「赤」地におどる「青」が印象的なセットアップ。モノローグで「愛があれば争いも生じる」と語られるように、愛(青)のために争う(赤)パフォーマンス?

 

 愛のために争った主人公の殉教後、工場はもぬけの殻。あわてて街中に出た「赤」い服のレッドは「青」の葬列のなか立ち尽くす。

 

 ここで最もファッショナブルなモーメント──ナイジェリアン・ベールに身を包んだコフィの登場。”We got our day”とレッドに宣言。彼女に色欲の目を向けていたレッドが「着飾るのか、グヘヘ」みたいなこと言うシーンへのペイパックでもあります。

 

 「青」に染まる街。

 

 祝祭の葬列を歩くコフィ。世界一のファッション・アイコンがナイジェリアルーツのブラック・ファッションを誇るパワフルなシークエンスとなります。Vogueでも衣装担当者が興奮気味に語っていますが、意義深いキャスティング。

 そして画面は暗転し、エピローグへ。モノローグふくめて、この映画はコフィが娘に語っていた伝説だったことが判明。つまり、決死の「音楽」によって「争い」に搾取されつづけていた島に「愛」が甦ったと受け止められる構成。音楽家チャイルディッシュ・ガンビーノ、見事なフィナーレです。