『ど根性ガエル』二次元を現実へ書き換える延命

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 ドラマ版『ど根性ガエル』の命題は「二次元世界」を「現実世界」で延命させることである。その「二次元世界」とは原作に他ならない。原作が持つ「二次元世界」の最たるメタファーがピョン吉。だからドラマの主題は「現実世界でのピョン吉の延命」となる。ドラマ版は原作の一要素を否定してまでも『ど根性ガエル』を現代の現実社会に順応する形でリブートさせ、延命を試みる。

1.原作の改変 "ヒロイン"から"人"となった京子

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(男子にモテる理想のヒロインとしてセクシー描写されるアニメ版の京子)

  子供達によって構成される夢の空間、それが原作『ど根性ガエル』の「二次元世界」だ。ドラマ版は主人公たちを現代の現実世界に生きる30代周辺の大人へと成長させた。そうすると、原作の設定をそのまま大人の役者たちに演じさせるわけにはいかなくなる。よって、ドラマ版はある面で原作の要素を否定する方向へいく。ドラマ版の原作への否定は、前田敦子演ずるヒロイン・京子の叫びに現れている。

「女とかじゃなくて、人としてちゃんと生きたいの。そのためにこの街に帰ってきたの。人として仲間に入れてよ。」 

 これは選挙に挑むゴリライモに「当選したら結婚してほしい」とプロポーズされた回の台詞である。京子はゴリライモにトロフィー・ワイフとして扱われたと感じ、傷心し、涙した。

 ドラマ版の京子は「男子にモテる紅一点ヒロイン」として扱われることを拒否した。京子の悩みは、『問題のあるレストラン』で指摘された「しずかちゃん」問題と同様だろう*1。可愛らしく、メンバー全員の男たちにモテ、"特別な女の子"扱いされ、チヤホヤされる……。これは『ドラえもん』のしずかちゃん、『ど根性ガエル』の京子ちゃん両方が併せ持つ特性ではないか。ドラマ版の京子は、この扱いを「一人の人間として扱われていない」と認定し、悩み、拒否した。彼女の叫びを聞いたひろしは、「人として仲間なのは当たり前じゃないですか。死んだって仲間ですよ」と漫才調で返す。京子は泣く。そもそも、彼女はドラマ1話で離婚を経験し里帰りしている。この時点でドラマ版『ど根性ガエル』は、原作の「理想のヒロイン像」を破壊している。そうすることで、大人の世界、および現代で「京子」というキャラを一人間として延命させた。

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 大人となった『ど根性ガエル』を描くドラマ版は、このようにして原作の「夢の二次元世界」をある面で否定している。しかし、そうして一面一面を否定することで、『ど根性ガエル』の多くの要素を「大人の現実世界」で延命させようと務めている。人間としての京子、不器用なガキ大将としてのゴリライモ、ストーカーばりに純愛を貫くシャイな梅さん……。みんな「大人の現実世界」で出現したら、つまりは原作そのまま実写化したら「狂人」に見えてしまいがちな造形だ。ドラマ版『ど根性ガエル』は、彼らのそれぞれの一面を削ぎ落とすことで、これらのキャラの愛嬌を引き継いだまま上手く実写化させている。正に、今日の実写版では到底成立しないキャラクタ達を上手く"延命"させたのだ。さて、本作の”延命措置”の中の最たる命題がピョン吉である。

2.延命の成功 ピョン吉を書き換えたひろし

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 京子は無職生活を続け、パン工場バイトも遅刻してしまう30歳のひろしについてこのように語る。

「良いところがあるんですけどね」

「でも、子供のころの良いところって、大人になると悪いところになるんですかね」 

 この「子どものころ」を「二次元世界」、「大人」を「現実世界」と代入しても違和感は無いだろう。だからピョン吉は悩む。「二次元世界」的なチート能力を持つピョン吉が30年間ひろしを助け続けてきたから、大人になったひろしは「現実世界」で無職になってしまったのではないか?ピョン吉の煩悶は続き、遂には彼自身を消滅へ至らせる。

 結局は最終話で生き返るわけだが、彼のカムバックと共に、「ピョン吉が居なかったパラレルワールドのひろし」が登場する。パラレルワールドのひろしは優しい心を持ちながら大人の現実世界に疲弊し、努力するも挫け、遂には犯罪に身を落としてしまう。ピョン吉が居なければ、ひろしは優しい心を持ったまま犯罪にまで走ってしまっていたことが明かされたのだ。つまり、ピョン吉が居なくともひろしは元々優しい心の社会不適合者。逆に、ひろしはピョン吉が居たからこそ法律を破らず、結果的に社会復帰できたのだ。ピョン吉の「二次元世界」の住人ゆえの悩みは最終話で解決する。

 ドラマ『ど根性ガエル』の結論は「生まれてきたのだから生きていて良い」である。居場所が無かろうと、働いてなかろうと、生まれてきたのだから生きてて良いのである。だから、一見「現実社会」では不釣り合いの、「二次元世界」の住人・ピョン吉も、生きていて良いのだ。ただ、ピョン吉の場合、現実世界の帳尻合わせは多少は必要となる。要されるのは「自分は生きていても良い」と思う為の自己肯定である。ピョン吉が「現実世界」で生きる為の自己肯定……それを与えたのが彼の親友・ひろしである。メタ的には、ひろしはピョン吉を「現実世界」で生きられるキャラクタへと"書き換え"したのだ。

 実は最終話の冒頭に、ドラマ『ど根性ガエル』のテーマが「二次元世界」の書き換えであることが示唆される。幼少時のヒロシが絵本を書き換えたエピソードだ。幼いヒロシは、「大人になって現実世界で生きねばならないから二次元世界の住人である相棒と別れるシナリオ」を自らの手で改変した。大人になっても「二次元世界」の相棒と共に生きられる。彼はそう結論づけたのだ。ドラマ本編のひろしは、この「絵本改変」と全く同じことをしている。実際、ひろしはピョン吉のど根性パワーに頼り切らぬ形で社会復帰を果たした。その努力を見せたあと、ピョン吉に自己肯定感を授けた。つまりは、相棒と2人で大人になった。ひろしは、現実から逃げぬ形で、「子供の世界(二次元世界)」の住人・ピョン吉を「大人の世界(現実世界)」に順応させたのである。世界はそのど根性を肯定し、ピョン吉をひろしの元へ舞い戻す。とんだ人間賛歌、及び"ど根性賛歌"である。ひろしの母が言うように、「生まれてきたのだから生きていて良い」のである。いつでも世界は変わっていく。その中で挫けてしまうこと、傷ついてしまうこと、失ってしまう物も多い。変わらない物など無いのかもしれない。でも、形を変えて残り続ける物は、きっとあるのだ。

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Grade:A

↓初回感想

outception.hateblo.jp

参考資料

ど根性ガエル DVD-BOX

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