人間の論理と直観〜うんこカレーに潜む二重過程モデル〜
人間は「直観」から逃げられない。幾ら論理的であるとされる「推論システム」のみで思考しようと努めても、“理屈に合わない”と感じる行動を促す「直観システム」には抗えない。それをカレー&うんこで説明します。(本文1,767字)
1.カレーとうんこカレー
「うんこ味のカレーとカレー味のうんこドチラが良い?」……このジョークは割と有名。タイトルで釣っといて難ですが、この問だと哲学領域に達するので少し変えます。
「貴方は便器を模した皿に載っているカレーライスを普通のカレーライスと同様に感じられるか?」
イメージ画像。
(引用元:「資生堂パーラー」で、贅沢なカレーフェア開催 (1/4)|ニュース|Excite ism(エキサイトイズム))
イメージ図2。
(引用元:カレー うんこ - Google 検索)
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例え中身が同じ資生堂パーラーの物とわかっていても、多くの人にとって、器だけで印象は大きく異なります。後者のカレーライスは大便を想起させるからから、一般的カレーライスと同様に扱えない。当然の事のように感じますが、ここに「人間の論理が直観に敗北する瞬間」が隠されています。実は似たような認知科学実験が存在するのです。
2.ファッジによる二重過程理論実験
「論理」では概要説明が難しいので、世間で論理、理屈と呼ばれる物を「推論」とします。これから説明する【二重過程理論】は「脳には推論システムと直観システムの2つがある」という物です。ではカレー&うんこカレーに似た実証実験を紹介します。高橋昌一郎『感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)』より引用。
最高級品の菓子ファッジを次々と被験者に提供し、食べてもらう実験。被験者たちは喜んで出されるファッジを食べる。しかしながら、大便のような色と形をしたファッジが出された瞬間……被験者達から笑顔は消え、一気に顔を曇らせる。彼等の大多数が大便の形をしたファッジを口に入れる事を拒否した。
(引用元:photo by Veganbaking.net)
これも当然だと感じられますが、これこそ認知科学の『二重過程理論』……「ヒトの脳が(対象の外見に根源的な嫌悪を示す)直観システムに支配されている事」を示すのです。理屈を通すならば、もっとファッジを食べたいと思っていた被験者たちは「これは先程まで望んでいた美味しいファッジである」と分析し、口に入れるはずです。だけれど、理屈でそうと言っても、大半はこう思うでしょう。「口に入れれば味の保証された菓子だとわかっているが外見が嫌な印象を与えるので食べたくない」。これこそ人間の分析力が直観に敗北を期する瞬間。人が(美味しさ自体は確信している)大便のような食べ物に躊躇を示す事は非論理的、非合理的なのです。【二重過程理論】を簡単に説明します。
3.二重過程理論 人間の分析と直観
二重過程理論は「ヒトの脳には推論と直観、2つのシステムがある」と提唱します。
【二重過程理論】
- 推論システム: いわゆる理屈、論理。言語や規則に基づく処理を行い、意識的に刺激を系統立てて制御する。
- 直観システム:いわゆる直観。刺激を自動的かつ迅速に処理し、意識的に制御できない反応を引き起こす。
一般的にヒトが「自己」という言葉で形容する物は「推論システム」です。しかし、脳は「推論システム」と「直観システム」の2つを携えている。前者は後者を制御しきれない。ある種、ヒトは2つの心を持っているとも言えます。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンは、この「二重過程理論」を以下の図で表しました。
カーネマン(2011)「二重プロセスシステムの概念図」、p.103 (引用元:マーケティングのキーコンセプト|毎日新聞社広告局)
もう1つ例え話。我々は口の中に溢れた唾を飲み込む事に嫌悪感を示しません。しかし、清潔なコップに吐き出した自分の唾を飲めと言われたら拒否感が沸いて出る。これにも、身体から何かが出た瞬間にそれらを自己組織とは異質の排斥されるべき物質と認知する「直観システム」が働いているのです。この「直観システム」による条件反射的な嫌悪感を、「推論システム」は制御できません。
【二重過程モデル】が否定されない限り、人間が論理的でありつづけることは不可能でしょう。幾ら理知的であろうとしても、ヒトは便器皿カレーに普通のカレーとは違った印象を持ってしまうし、大便のようなファッジを普通のファッジとして扱えないし、コップに出した唾を口内の唾のように飲み込めない。どんなに努力しても直観には完勝できないからこそ人間は面白いのかもしれないし、又々、知識を付けるという行為は「推測システム」分野の発達なのかもしれません。
参考文献・資料
感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性 限界シリーズ (講談社現代新書)
- 作者: 高橋昌一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/02/08
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