『ヒックとドラゴン』とブルーオーシャン戦略
「竜の狩猟」がアイデンティティとなっているバイキング集落に住む気弱な少年ヒックは、自ら発明した武器で伝説のドラゴンを撃つ。偉大なバイキングである父に「弱い男」烙印を押される彼は、仕留めたドラゴンを手当し、なんと仲良くなってしまう…。
伝説のドラゴン倒せる時点で天才じゃねーか!・・・と いうツッコミは置いといて、最強ドラゴン・ティースと仲良くなった彼は、バイキング試験でも「ドラゴンとの交流」をはかり始める。仲良くなったヒックの生 態を観察し、それで得た情報が他ドラゴンにも適用するか試す。ティースが苦手なウミネコを、討伐すべきドラゴンに投げてみるとか。他の研修生がドラゴン討 伐を志すなか、ヒックの異色策は功を成し、彼は最優秀成績を獲得する。これ、正にブルー・オーシャン戦略。流行り言葉を使うとヒック少年は既存概念を打ち砕く「イノベーション」を起こしたのである。
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ここでは、企業が生き残るために、既存の商品やサービスを改良することで、高コストの激しい「血みどろ」の争いを繰り広げる既存の市場を「レッド・オー シャン」、競争者のいない新たな市場でまだ生まれていない、無限に広がる可能性を秘めた未知の市場空間を「ブルー・オーシャン」と名づけています。この 「競争」とは無縁のブルー・オーシャンという新しい価値市場を創造し、ユーザーに高付加価値を低コストで提供することで、利潤の最大化を実現するというの が、この戦略の狙いです。
『ヒックとドラゴン』に置き換えると以下のようになる。
- レッ ドオーシャン(規定戦略):家畜を食い荒らすドラゴンは殺害せよ、というバイキング村の既存概念。その戦略は既に民族のアイデンティティと化している。し かし、いくら殺してもドラゴンはやって来るので正に「血で血を洗う」状況。デメリットは高すぎるコスト=怪我人・死人が出ること。又、ヒックのような戦闘 意欲が低い住民は人格否定される。
- ブ ルーオーシャン(新規戦略):ヒック少年が編み出した「ドラゴンと信頼関係を築く」方法。彼以外誰も想像にしなかった正に「美しく広がる蒼い海」。ドラゴ ンと協力できれば怪我人・死人は激減するし、彼らに乗れば空も飛べるし、重い荷物も軽々運んでくれ、仕事効率化を低コストで得られる。
周囲のバイキングがヒックの提案に激しい拒否反応を示す点も「イノベーション」っぽい。時代を切り開く戦略は「元から存在したのに誰も見なかった/見よう としなかったところ」にあるのだ。『ヒックとドラゴン』は子どもも楽しめる中で「イノベーションが起こる現場」も垣間見られる作品である。
【以下ネタバレ】
主人公が義足になるラストは衝撃だけれども、これは相棒のティースの翼を奪った分、下された罰でしょう。残酷かもしれないけれど、相手を一方的に損なわせてしまったあとでも親友になれる、と考えると感動。