映画

『わたしに会うまでの1600キロ』立派すぎた助手席の娘

ダメ人間讃歌ではない。「立派すぎた母と駄目な娘の物語」でもない。主人公の凋落は、「立派すぎた母と娘ゆえの悲劇」だ。自分の人生の運転席に座れなかった母親と同じく、主人公もまた「母の立派な娘」という助手席に乗り続けていた。1,600キロの横断は、彼…

『羊たちの沈黙』レクター博士とクラリスが触れ合うシーンの元ネタ:殺人鬼と尼僧見習いの洗礼

トマス・ハリス『羊たちの沈黙』の登場人物であるハンニバル・レクターは複数の実在殺人鬼のモデルを持つ。その中の1人が、獄中からFBI捜査に参画した連続殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスである。平山夢明『異常快楽殺人』によると、どうやらこのヘンリーは…

『グローリー/明日への行進』反差別ゲーム

"LoveWins"。2015年6月26日、アメリカ合衆国全州において同性婚が合法化された。この可決に大きく寄与したのは世論変化だ。WSJ紙によると、1990年時点ではアメリカ人の8人中7人が「同性愛は正しくない関係」と見なしていた。2004年にしても同性婚支持率は…

『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』親殺しと子殺しの同居

まるで婿舅ドラマである。カイル・リースはT-800に「サラ・コナーの婿に相応しいか」審査されているような絵面。そんな家族的物語の印象を残す本作は、タイムトラベルによって多くの「親殺し」と「子殺し」を発生させている。非常に複雑な関係性に注目すると…

『ラブライブ!The School Idol Movie』マイルドヤンキー的「今の私たち賛美」

『ラブライブ!』 は一貫して「仲間主義」である。第1期では、ことりは個人の夢を追いかける為に地域の仲間を切り捨て留学しない。第2期では、μ'sは「今の9人」が最高であるから、先輩を送り出して新入生を迎え入れない。ただμ'sは「今の私たち」を賛美す…

『新宿スワン』原作に糾弾される“他人事”を吐く映画

歌舞伎町はヒーローになれない街である。少なくとも、スカウトには。映画版『新宿スワン』は、「スカウト業に必然的に宿る陰」……「女性の人生を破綻させる大きな可能性」を“見て見ぬ振り”している。その為に、「スカウト業に必然的に宿る陰」を緻密に描いた…

名探偵コナン 業火の向日葵★★★コナンの劣化

コナンのネタまとめ感想。全ネタバレ。 (本文2,275文字) 【NY編】 「その名も7人のサムライ…!圭子アンダーソン!宮台 なつみ!東幸二!石嶺泰三!チャーリー!」←チャーリーさんだけ苗字が無くて可哀想 飛行機での誰得な百合 【空港編】 予告編で流れた…

『フォックスキャッチャー』隣人を壊す完璧ヒーロー

殺人動機は「ヒーローがヒーローだったから」だ。完璧なアメリカン・ヒーローが男を狂わせる。もちろんヒーローは悪くない。彼は仕事も家庭も完璧な男で、正にアメリカが誇る「アメリカの英雄」。それ故に「ヒーローになりたくてなれなかった男」は狂ってゆ…

『セッション』梶原一騎イズムの異常者バトル

梶原一騎テイストの「異常者vs.異常者」映画である。実際とは異なった音楽描写も、なんだか「いい話」風に終わるハラスメント描写も、梶原一騎『巨人の星』系統と捉えればそう気にならない。才の無い異常者・指導者と、才のある異常者・生徒が出逢い、“偶然”…

『劇場版ドラゴンボールZ 復活の「F」』悟飯とフリーザが弱いわけ

「戦闘狂」たちの物語となった新生『ドラゴンボール』で、戦闘狂・孫悟空が「弱点」を克服する話だ。『ドラゴンボール』は、2010年代に入って【善vs.悪のヒーローもの】の冠を捨て【戦闘狂バトルもの】にアップデートされた。その中で「ヒーロー」である…

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』アメコミファンも批評家も愛のビギナー

「大衆作品vs.芸術作品」構図ではないと考える。知識不足の商業主義業界人やアメコミ映画偏重傾向の描写が目立つが、それらの「ハリウッドの問題」を描く中で、芸術志向者たちの矛盾と「ブロードウェイの問題」も描いている。人間のエゴを主体に描きながら、…

『博士と彼女のセオリー』崩壊した"円"と現代に残る"直線"

最初からすれ違っている夫婦の話である。画面に着目すると、とにかく「円」が多い映画で、その暗喩は執拗な程に出現する。…ブラックホール、螺旋階段、瞳孔、コーヒー、夫婦の戯れ、チョーク、池作り、車椅子の周回、ボール、模型、電球、メリーゴーラウンド…

『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』ミセス・ロビンソンに火炙りを

病理に満ちた映画である。劇中描かれるのは、過激な宣伝から想起される『マイ・フェア・レディ』のような"古典的"恋愛関係ではない。クリスチャン・グレイは、オールド・カーが好きと言う恋人の愛車を勝手に売り払い、ピカピカの高級車を押し付けるような男…

『クロニクル』まるで少年犯罪ルポ

SF映画なのに、少年犯罪ルポのよう。恐ろしい程のリアリティを感じてしまった。 1.虐待と相関する転落 無職の父親は暴力を振るう。母親は重い病気で、優しいけれど息子に「強くなってほしい」と懇願する。のにちそれが呪詛になる。 こんな家庭環境の上、学…

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』主人公になれないディカプリオ

レオナルド・ディカプリオという俳優は「いつも主人公になれない」気がする。 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。欲に取り憑かれヒトでなくなった男は、狼にも牛にもなれず、地を這うミミズ以下の存在となる。墜落への道筋は丸刈り狂乱の時点で下されて…

『もらとりあむタマ子』彼女が無職なワケ

映画『ロスト・イン・トランスレーション』は「尻」から始まる。背中とパンツだけで「孤独」を表した名タイトルバックだ。本作もまた、主人公の初登場シーンは「尻」。都内高級ホテルの整ったベッドに居たスカーレット・ヨハンソンと異なり、前田敦子が寝そ…

『そして父になる』アダルト・チルドレン脱出の成功譚

「父の呪縛に囚われていた主人公がアダルト・チルドレンを脱却し孤独じゃなくなる話」である。又、それに伴う「家族の再生」が描かれている。同 じくカンヌで賞を授かった『ツリーオブライフ』『トウキョウソナタ』に似ている。文学的に言うと「父殺し」の物…

『ヒックとドラゴン』とブルーオーシャン戦略

「竜の狩猟」がアイデンティティとなっているバイキング集落に住む気弱な少年ヒックは、自ら発明した武器で伝説のドラゴンを撃つ。偉大なバイキングである父に「弱い男」烙印を押される彼は、仕留めたドラゴンを手当し、なんと仲良くなってしまう…。 伝説の…

シャーリーズ・セロンは何故『モンスター』を演じたのか?

美人女優シャーリーズ・セロンは、何故あそこまでの身体改造を行い連続殺人犯を演じたのか?それは彼女が『モンスター』の主人公に共感したからではないだろうか。セロンはアイリーン役についてこう語る。 映 画『モンスター』のアイリーンとラヴェンナは、…

『サラの鍵』過去を知らなければ、未来は作れない。

『最強のふたり』はフランス映画らしく、実話・障碍・格差を扱いながらも「感動しろ」という演出を最後まで行わなかった。本作はそんな映画だ。 『ザ・マスター』はある種戦争の映画であった。「戦争」は終戦調印しただけでは終わらない。世界大戦に勝っても…

『ザ・マスター』ミイラ取りがミイラに、信者が教祖に

「観終わったあと、ただ楽しかった、笑えた、泣けたなどと一言で終わらせられる映画は劇場で見る価値が無い」この言葉を是とするのならば、この上なく高尚な作品。 新興宗教サイエントロジーがモデルの本作。その開祖のロナルド・ハバードにあたるのは、フィ…