『13の理由S2』リアリズムからスピリチュアリズムへ?

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 寄稿『若者の憂鬱と「死にたい」を表現するドラマや音楽。米社会の闇を探る - コラム : CINRA.NET』でフォーカスしたNetflixドラマ『13の理由』。高校生の視点をリアルに描きヒットした本作だが、S2ではリアリズム演出を破壊する挑戦に出ている。幽霊が出現し、スピリチュアリズムにまで着地するのだ。それでも、本作は「アメリカの10代のリアル」を描きつづける。

告発と反響

  『13の理由』S2には、前シーズンの真逆を行く鏡のような側面が多く見られる。第一に「告発」。ハンナ以外の高校生たちは、S1では「告発を聞く側」だった。一方、S2では「告発する側」になっている。ハンナの自殺にまつわる裁判で証人喚問に呼ばれたからだ。シーズン通して告発する勇気、または告発における虚偽、そして告発への反応が描かれる。そして、告発への反応には、疑問や嫌悪も含まれる。その対象は、主に性暴力加害者と被害者、そしてS1における告発者であったハンナだ。

【以下、後半部ネタバレ】

“不完全さや欠陥が新しい完璧” 

出典:https://www.wwdjapan.com/612672

  これは『13の理由』S2と同時期にリリースされた“ADIDAS ORIGINALS BY ALEXANDER WANG SEASON3”のテーマだ。自分とは異なる否定意見──または自分への否定──を目にしやすいSNS時代に相応しい一句といえる。『13の理由』でも「人は不完全なこと」が描かれる。しかし、人々は「不完全」をお好みではないようだ。

 『13の理由』S2では、ハンナ自身が語らなかった事実が明かされていく。例えば、彼女は夏休み中にある男子生徒とセックスをしていた。そういったことが裁判で証言されていくのである。アメリカのティーンが性行為を経験することは一般的な範囲と言えるだろう。しかし、その子が女子で強姦被害告発者、さらには自死後に裁判を巻き起こしたとなると話は変わってくる。ニュースを見た人々はこう反応する。「この自殺した少女はとんでもない男たらしだ」。これは、S1で発生した一部視聴者の感想でもあった。いわゆる「完璧ではない被害者」へのバッシングである。「レイピストと知ってる男の家のパーティーに何故行ったのか? 強姦はハンナの自己責任ではないか?」「ハンナはとんでもないビッチだ……」。ある種、S2はこうした反応へのレスポンスかもしれない。前回以上に女性への性暴力や抑圧の問題が掘り下げているからだ。その主張のうちでは、S1で評価されたリアリズム志向をも打ち破っている。

破壊されたリアリズム:スピリチュアリズムへの着地

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我々は、キャラクターの内面を描くため、ときにリアリティを破壊します (『13の理由』製作総指揮・脚本家ブライアン・ヨーキー)

出典:http://ew.com/tv/2018/05/23/13-reasons-why-season-2-me-too-scene-almost-cut/

  『13の理由』S2は、シリーズのブランドであったはずの「リアリズム志向」を破壊した。代表例は最終話に出現する。裁判でジェシカが性暴力被害を告発するシーンでは、「多くの女性たちの性暴力被害告白」がエコーのように重ねられる。主張がかなり強い非リアリズム的演出だ。今までの方向性を破壊する演出ゆえ、評価はわかれるかもしれない。一方、それほどまでに製作陣が性暴力問題を重要視していることがわかる。

 S2では、リアリティとは真逆のスピリチュアリズムまで活発だ。なんと、死んだはずのハンナが幽霊として出現する。おそらくは苦悩するクレイが作り上げた幻影だが。今シーズンにおいて、スピリチュアリズムは隠れたポイントかもしれない。終盤、ハンナを亡くした人々は、宗教論やキリスト教式追悼式で安堵を得る。現実でも、信仰や追悼イベントによって精神をやわらげる人々は多い。人々にとって説得力を持つ言葉は、リアリズムだけではないのだ。 「性被害に遭った女性たちのエコー」、「幽霊」、「宗教論」。非リアリズム要素がポイントとなった『13の理由』S2だが、前作以上に現実の問題を描き続けている。

アメリカの10代のリアル

 最後に、ラストについて。『13の理由』S2では、イジめられた高校生が校内銃乱射事件を決起する。これは大きな話題を呼んだ。リリースとテキサス州高校銃乱射の時期が重なったのだ。男子生徒による犯行という点も一致している。この事件を受け、同日開催予定だったプレミアが中止された。

 非常に痛ましい事件だが、銃乱射事件はアメリカの日常と言える。ガンビーノの記事でも紹介したが、2018年のアメリカでは138日中101件も銃乱射事件が起こっているのだ。被害にあったサンタフェ高校の生徒は「いつか起こると思っていた」と語った。この発言を受け、TeenVogueデジタル編集ディレクター、フィリップ・ピカルディはこう呈した。「これがティーンエイジャーの新たな現実だ」

  悲しいことだが、『13の理由』は「誇張された過激トピック」ではなく「現実アメリカ社会の10代の問題」を描いている。本作でフォーカスされた主な問題を連ねる。10代の自殺、憂鬱、経済格差、性的暴力被害、そして銃乱射事件。銃乱射事件の死者数は2017年に史上最高となった。経済格差も深刻になっている。性的暴力の告発はMetoo、TimesUP運動で活発となっている(同時に沈黙を強いられた人々の膨大な量も露見した)。そして、以下の寄稿で記したように、現在のアメリカでは若者の自殺率とうつ傾向率が急増している。

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www.cinra.net

 『13の理由』やエモRAPを中心に「アメリカのポップカルチャーの若者の自殺ブーム」を考察したコラム。その裏には深刻な自殺率増加。そしてスマートフォンSNSが……? HIPHOPをフォーカスし、黒人層のメンタル・ヘルス問題にも触れています。 

www.fuze.dj

 『2010年代の必須ドラマ:ベスト20』にて『13の理由』S1紹介を担当しています。第8位。