アートなホラー映画全盛期のハリウッド事情/ドラマ映画の凋落

 2010年代末、アメリカ映画でホラーが最も熱いジャンルになっている。ヒットする上にアート映画としての評価も上々なのだ。2017年から2019年3月にかけて、boxoffice週末興行で首位を獲得した実写オリジナル7作品のうち5作がホラージャン*1。なかでもジョーダン・ピール監督『ゲット・アウト(2017)』は、予想外の大ヒットを記録したのみならず、Rotten Tomatoesクリティーク・スコアで100%近い数字を獲得、アカデミー脚色賞の受賞に至った。この快挙がランドマークとなり『クワイエット・プレイス(2018)』『へレディタリー/継承(2018)』など「セールスと評価を両立させたホラー・ジャンル快進撃」がつづいている。2019年3月にはピールの新作『Us』も大成功スタートを切り、正真正銘「アーティスティック・ホラー」時代が花開いた……では、一体なぜ?

 Fast Companyでは、現実的なビジネス事情が解説されている。消費者が家の中でNetflixを観られる時代、大手映画スタジオはスーパーヒーローなどの有名キャラクター&シリーズもの超大作に集中。かたわら、かげりが報告されるジャンルは『レインマン(1988)』のような、主要アワードを獲得してきたスター主演の中間予算ドラマ映画だ(ここでいう“ドラマ”とは“TV Show”ではなく作品ジャンル)。Varietyが報じたように、かつて興行収入に影響を与えてきたAリスト俳優たちのスターパワーも下がっている。

 中間予算ドラマが凋落する一方、低予算ホラーはより良きビジネスとなった。このジャンルにはスター俳優がいらないし、撮影場所も少ない。Netflixと競合するスタジオ側にとって、安価なホラーはリスクヘッジに最適なのだ。さらに、ホラーは「恐怖」を言語とするため国外市場成績が良い。中国は規制があるが、日韓市場でウケる。こうした背景により、ハリウッドでは低予算ホラー映画が「アート系作家の安息地」と化しつつあると伝えられている。近年では、低予算ホラー映画に出演するスター俳優も増えた。出演料自体は少額だが、ヒットしたら追加分が入る。たとえば『クワイエット・プレイス』主演のエミリー・ブラントは、結果的には一般的な出演作品より6〜8倍の支払いを得たと報じられている。

 筆者としては、ホラー・ジャンルが「劇場でしか味わえない現場体験」の側面が強いことも人気の要因ではないかと感じている。いわば、友人と行くお化け屋敷のような体験型エンターテインメント性だ。近年オリジナルとしてヒットした『ダンケルク(2017)』もこうした“現場体験”要素が強かった。これらやスーパーヒーロー映画と異なり、中間予算ドラマには“現場体験”要素が少ないため「Netflixで観れば良い」方向に行きやすい。

 ちなみに、21世紀のホラー・ムーブメントにはずせない存在は、ジェイソンン・ブラム率いるブラムハウス・プロダクションズ。現在ハリウッドで需要が高まっている「アーティスティックな低予算ホラー映画」の製作システムはこのスタジオが確立させたと言われている。予算を低くおさえることで作家のヴィジョンを重要視する一方、上映テスト結果が良くなかったら公開しない方針をとっているようだ。ピールの『ゲット・アウト(2017)』『Us(2019)』をはじめ、ブラムは『パラノーマル・アクティビティ(2007)』『パージ(2013)』『ハロウィン(2018)』『ミスター・ガラス(2018)』等々を成功させている。

*1:続編、スピンオフ、リブード、リメイクを除外した完全オリジナル実写作品の計上 https://twitter.com/davidehrlich/status/1109178173739200514