『デスノート』友人想いのLと立派な父親、ただ消え去るだけの凡人殺人鬼

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 ドラマ版『デスノート』は罪悪感から免れる為に新人格「キラ」を創り出してしまう物語である。物語が進むにつれ、月はどんどんキラを自身の人格に取り込んでしまう。最終的には完全にキラに呑み込まれ、月自身がキラとなる。この「キラ」化の通過儀礼となったのがLと父親である。この2人……特にLは、月と同じく、ドラマ化にあたり大きく設定改変されている。

【目次】

  1. 友情に厚い男・L
  2. 殺人鬼の通過儀礼となった「父殺し」
  3. ただ消えるだけの凡人殺人鬼

1.友情に厚い男・L

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 ドラマ版のLは熱血漢である。「正義は絶対に勝つ」と叫び、一方で月を「初めて興味の持てた友人」と認める。月の正体を見破りながらも、「父との軋轢&殺人への罪悪感からキラを創り出してしまった月の優しさ」を気にかけ、逮捕するか迷う程だ。いざ凶悪犯である月と相対しても、「君は優しい人間のはずだ 悩んでいたんだろう?」と正に命を懸けて親友の説得にかかる。結果、その友情が高じ、月に殺される。

 この少し前、一時的にキラであった記憶を喪失した月は、Lにこのように告げた。

「小さい時に母親を置き去りにして仕事をした父さんを怨んだんだけど、今なら父さんの気持ちがわかるよ 絶対にキラを捕まえよう」

 ドラマ中で1番の悲劇、皮肉である。月は、父との軋轢でアダルト・チルドレンとなった。アダルト・チルドレンだから、最初の(不本意の)殺人を刑事である父親に相談が出来なかった。そして、その父親を救う為に初めて故意の殺人を犯してしまう。父を救う為の行動であったはずなのに、アダルト・チルドレンだから父に相談できない。この罪悪感から逃れる為に「世界を救うキラ」という人格を創り出し、依存する。そこにLが現れ、遂に戻れなくなる。月の「キラ」への依存は強まり、いつしか彼の人格は「キラ」に乗っ取られかけていた。「キラ」の理想に没入し、「キラ」を続ける為に彼はキラ捜索チームに入った。自発的に記憶を喪失し、そこで初めて彼は父を理解することができた。「キラ」誕生のキッカケとなった父への疑念は、「キラ」を続ける最中に解消したのだ。でももう遅い。優しかった青年の心は、既に「連族殺人の理想」に浸かりきっている。

 Lはこのような事情を察したからこそ、懸命に命を張って親友を説得したのだろう。その甲斐虚しく、結局は「キラ」化を進めた月に殺された。そして、月は最終回1話前に「キラ」化を完了させる。他ならぬ父親通過儀礼とすることで。

2.殺人鬼の通過儀礼となった「父殺し」

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 ドラマ版の夜神総一郎は息子の正体に気づく。職務よりも「父としての自分」を優先させLを死に至らしめた自分を悔い、体当たりで息子と相対する。過ちを認めない息子の前で彼は自身の名前をデスノートに書いた。つまりは自殺である。月からしたら、父に罪を告白しないと、父はデスノートに名前を書いて自殺してしまう。総一郎は「私の命かキラとしての理想かどちらかを選べ」と差し迫ったのである。実態的には、己が自殺しようとすることで、人間1人の命がいかに重いかを示した。

 総一郎の正に命を張った説得は、結局は彼の息子に「完全にキラになる為の通過儀礼」を与え終了する。総一郎は自身の名前を綴ったデスノートを燃やそうとする。月は必死に父親からデスノートを奪おうとする。揉み合いになってる途中、総一郎は死ぬ。月は必死になった父の遺体からノートを引き剥がす。そうして、ノートを抱き、泣きながら歓喜する。警察に連絡し、「父はニアに殺された」と虚偽の証言をし、不敵に笑う。「普通の青年・夜神月」の「連続殺人鬼・キラ化」の完了である。夜神月が父の命を救う為に生まれた「キラ」は、夜神月が父を殺すことで夜神月自身をも殺したのである。あとは簡単、結局は凡人である主人公が消え去るだけだ。

3.ただ消えるだけの凡人殺人鬼

 ドラマ版のLと夜神月総一郎は、正に命を懸けて夜神月を心配し、彼に過ちを認めさせようとした。Lは月と共に「優しい人間」に改変されている。「優しい人間」だった月は、そんな「優しい人間」であるLと総一郎を殺害し、2人の死を「キラ」化の「通過儀礼」とした。

 以上が最終回1話前までの夜神月の軌跡である。あとは簡単だ。完全に「キラ(悪)」となった主人公が、ただ正義に敗れるだけ。「優しさと弱さ故に悪へ堕ちてゆく普通の人間」の物語なら、死神も喜んで鑑賞する。でも、「身も心も悪と化した普通の人間」など、ただ作品の正義に倒されるだけである。天才であった原作の夜神月と違い、ドラマ版の夜神月は凡人なのだ。「正義の天才」と相対した「葛藤を無くし悪に染まりきった凡人」など、退場させられる以外に役目は無い。ドラマ版『デスノート』の、それまでとは比較にならないほど”スムーズ”に進行した最終回は、「凡庸な悪人など用無し」と言っているようであった。正に凡人の悲劇である。

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Grade:B

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