ガンビーノとカーディBのリッチ・コンセプト リベラル・ポップはMoney Moves ?

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 グラミー賞受賞につづきコーチェラ・フェスティバルのヘッドライナーも務めてイケイケ状態なチャイルディッシュ・ガンビーノさんがadidasとコラボ・スニーカーを出したのですが……

 スニーカーは3点とも“ほつれ”が施されたダメージド的加工がポイント。ガンビーノの声明は以下。
「リッチとはコンセプトだ。このプロジェクトでは、自分自身の足でいかにストーリーを語るか考えてほしかった。価値を決めるのは、着ているものではなく、その人それぞれの経験だ」 
 “Rich is a concept” なる第一声は『Guava Island』で彼が発した “America is a concept” と被さっています。後者についてはReal Soundで紹介しましたが、映画にしてもadidasコラボにしても「資本/マネー主義へのアンチテーゼ」と受け止められます。しかしながら、気になる点は、そもそもファッションにおけるダメージドやユーズド加工は「金持ちの贅沢品」とされてきたことです。「労働階級が履きつぶしたようなスニーカーやジーンズをわざわざお金を払って買う行為」こそヴァニティなラグジュアリーと言われたわけで。その代表格であるSaint Laurentは現在も汚れ加工されたスニーカーを販売しており、5万円はくだらない、10万円近い価格設定が並んでいます。ガンビーノのadidasコラボは1万円程度の価格設定ですが、それでも「それなりのお金を出してダメージド加工された商品を買う行為」自体はラグジュアリー・ブランドと変わりはない。
 「ラグジュアリーの象徴」とされてきた「ダメージド加工」を「アンチ・ラグジュアリーなメッセージ」に転換させるスターと大企業のコラボ商品。なんだか、これこそ「リッチとはコンセプト」という言葉の本懐な気がするわけです。ビッグなプラットフォームで言葉巧みにいいかんじのメッセージ(つまりコンセプト)を発信すれば、憧れそして仮想敵としての「富」の概念はグルグルと回すことができる。ケチをつけるわけではないんですが、ダメージド・デザインの普及を感じさせるとともに思想”トレンド”も考えさせる事案だなぁと。 もうひとつ、キャピタリズム関連の"トレンド"を感じさせるニュース。ガンビーノと同じくナンバーワン・ヒットとグラミー賞を手にして絶好調なラッパー、カーディBが大型ビューティー・イベントBeautyconでトークショー。彼女のキャラクターに関してはRolling Stone Japanで紹介しましたが、ストリッパーからの成り上がりキャリアを活かした「スラング連発の明け透けマネートーク」がヒットしたセレブリティでもあります。実際、このトークショーのテーマは彼女の代表曲『Bodak Yellow』からの引用 “Making Money Moves” 。「なにを言われようと稼ぎつづける」と主張をつづけるカーディですが、ここでも歯に衣着せぬ物言いで「人気ブロガーの技を盗む」「実家住まいを恥じることない、家賃分を貯金できる」などアドバイスしていますね。そして、このトークショーの聞き役となったBeauty Con CEOモジュ・マダラは、印象的なイントロデュースを発信してます。
「『ビューティコン』にはここ数年、“美”を再定義したい人々の多様な文化が集結してきた。次のステップは、金銭的なリテラシーを知ること」
 ある意味カーディ以上に明け透けなような……。うがった見方をすると「人種やら体型の多様性ブームだったけど、これからはお金関連が来る!」みたいなビジネス・トレンド宣言とも受け止められます。もちろん、単純に「多様性はかつての流行」としたわけではなく、フィナンシャル・リテラシーこそインクリュージョン促進やセクシズム解消を進めるにおける重要な一歩、という意味合いが強いのですが。このシフト・チェンジにおいて「格差社会におけるサバイバル術をリアルに伝えるカーディB」がまさに持ってこいなセレブリティであることは言うまでもありません。

 現実問題、アメリカにおける若年層の悩み事の筆頭には「経済環境」があがりがちですし、とくにミレニアル世代の白人は親世代より稼げない「燃え尽き世代」と言われます。ワシントンにおいても、2016年大統領選挙では社会民主主義カラーのバーニー・サンダースが人気を博し、トランプ政権期はアレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)が大人気。このAOCは2019年「ソーシャル・ジャスティスと経済・環境の正義をつなげる」要旨の演説かましたわけで「多様性の次は金銭的リテラシー」と語ったBeautyCon CEOはリベラル若年層の世相を読んだと言えるでしょう。ガンビーノは「アンチ・リッチな文化系」、カーディは「格差社会をサバイブする荒くれ者」みたいなイメージで、一見交差しないように思えますが、両とも「経済問題意識が強まるリベラル時勢」を象徴するスターかもしれません。

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チャイルディッシュ・ガンビーノ『Guava Island』の色と服

【※ ネタバレが含まれています】

 

 ついに公開された映画『グアヴァ・アイランド(Guava Island)』。ラッパーとしてのペルソナ、チャイルディッシュ・ガンビーノのキャリアの終わりを「死」と表現していたドナルド・グローヴァーですが、その終焉を飾るにふさわしいフィルムとなっております。50分たらずの短い物語のなか、非常に重要なテーマとなっているのが色彩ということで、取り急ぎ衣装にまつわる所感を書きました。

 

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アートなホラー映画全盛期のハリウッド事情/ドラマ映画の凋落

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経済ホラーとしての『イット・フォローズ』白人の悪夢と黒人の廃墟

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昔 親から8マイル通りを越えるのを禁じられてた

当時は理解できなかったけど あそこは郊外と都市の境界線だったのね 

 このシークエンスでは、廃墟となった家がおどろおどろしく映される。

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 これはおそらく、デトロイト市内に実在する黒人貧困街の廃墟だ*1。セリフに登場する8マイル・ロードとは「人種と富の境界線」とされる。下図はデトロイトにおける人種マップだ。青が黒人、赤が白人の移住者を指す。平行に赤と青を断絶している「境界線」が8マイル・ロード。

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( Wikipedia - Demographic history of Detroit )
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  『アリー/スター誕生』の新人女優レディー・ガガと2019年主演女優賞レースを争う作品だが、大女優グレン・クローズが14年かけて製作したこちらの映画こそ「スター誕生」と言うべき気迫がある。 

【以下ネタバレ】

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幅広い年代向けの「音楽観」?

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