『13の理由S2』リアリズムからスピリチュアリズムへ?

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 寄稿『若者の憂鬱と「死にたい」を表現するドラマや音楽。米社会の闇を探る - コラム : CINRA.NET』でフォーカスしたNetflixドラマ『13の理由』。高校生の視点をリアルに描きヒットした本作だが、S2ではリアリズム演出を破壊する挑戦に出ている。幽霊が出現し、スピリチュアリズムにまで着地するのだ。それでも、本作は「アメリカの10代のリアル」を描きつづける。

告発と反響

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政治ソングでアメリカ1位は難しい?ガンビーノの銃乱射とガガの同性婚

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 CINRA.NET『“This Is America”に揺れる現代と、リオン・ブリッジズの物語』で触れたチャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』。寄稿コラムにおいては、様々な社会問題を描いた作品であることを紹介した。こちらの記事では「アメリカで政治ソングが1位を獲得することは稀なこと」、だからこそ「10年代USで首位に輝いた2つの政治ソングはその内容とタイミングが的確だったこと」を伝えたい。

『This Is America』のような政治/社会問題ネタはヒットしやすいのか?

 2018年5月、チャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』がHOT100首位デビューを飾った。とくに話題を呼んだのはハイコンテキストなMVだ。リリースされるやいなやネットやメディアで数多の考察を巻き起こした。その注目度を立証するように、初週ストリーミングの68%がMV視聴となっている*1。『This Is America』以前のガンビーノのチャート最高記録は12位。彼にとっても大きな飛躍だったことがわかる。そこで見かけたある意見:「ガンビーノはヒットしやすい政治ネタで1位を獲った」確かに、明らかに政治的とされる社会問題を描きながらも真意がハッキリとしない本作は“考察合戦”を呼ぶ作りだ。アメリカ社会の現状を批判する内容であることは歌詞を聴いただけでわかる。注目度の高い社会問題はマスメディアにも報道されやすいだろう。しかしながら「政治ネタをやればヒットしやすい」旨には疑問を呈したい。アメリカのHOT100においては、むしろ政治性が無いほうが高順位を狙いやすいのが通説だからだ。

2010年代US1位の政治ソングはたった2曲?HIPHOPヒットも政治性は薄い

歴史的に、政治的メッセージやシリアスな社会問題を描く楽曲がチャート1位を獲得することは非常に稀です

- What Was The Last Political Song To Hit No. 1 Before Childish Gambino's 'This Is America'?

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ケンドリック・ラマー『DAMN.』ピュリッツァー賞の意義/芸術と認められたHIPHOP

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 CINRA.NET様に寄稿させていただいたリオン・ブリッジズ記事で触れた、2018年USブラックカルチャーの躍進と波乱。その中で大きく報じられたケンドリック・ラマー『DAMN.』のピュリッツァー賞受賞は、どのような意義があったのか?

 2018年ピュリッツァー賞音楽部門の選考委員レジーナ・カーターのインタビューがThe Atlanticに掲載されている。カーターはクラシック音楽を学んだのちJazzに移行した世界的ヴァイオリニストだ。インタビューでは、ピュリッツァーの審査過程、『DAMN.』製作に多くの人々が関わっている問題、カーター自身のケンドリック評などが語られている。記事のラスト、彼女はピュリッツァー賞についてこのように語っている。

ピュリッツァー賞の授与は、その対象がアメリカのアートフォームの一部だと呈することを意味します 

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『ブラックミラー』半分ノンフィクション?元ネタ紹介

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 Netflix配信中のUKドラマ『ブラックミラー』。人気のあるテクノロジーをテーマとしたSF寓話だが、多くのエピソードには「実話の元ネタ」および「実話になってしまった予言的描写」が挟まれている。英国首相は本当に豚とファックした?ソーシャルランクによって値踏みされる社会はすでに中国で実現?etc……本作の“ノンフィクションな側面”を複数紹介したい。

【目次】

  • S1E1『国歌』:本当に豚とファックした英国首相
  • S2E1『ずっと側にいて』:死者と会話するbotサービス
  • S2E3『時のクマ、ウォルドー』:英国選挙の謎キャラ文化
  • S3E1『ランク社会』:中国で流行る信用階級
  • S4E1『宇宙船カリスター』
  • S4E4『Hang The DJ』:選択肢が多すぎる情報恋愛社会
  • S4E5『メタルヘッド』:キモい殺人ロボ
  • おまけ:S3E4『サン・ジュニペロ』のテーマソング歌詞

S1E1『国歌』:本当に豚とファックした英国首相

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 「首相が豚とファックしなければ誘拐した王妃を殺す」──誘拐犯の異常な要求によって英国首相が追い詰められていく物語。SNSや海外メディア等、政府によって統制できない情報群によって首脳が迫られる様が描かれていく。「首相と豚のセックス」のTV放送を迫るなど考えれないが……実は、このエピソードは一部ノンフィクションを帯びてしまった。2015年、現実の英国首相デービット・キャメロンが「死んだ豚にフェラチオさせた過去」を暴露されたのだ。まさに『ブラックミラー』の「豚とファックする首相」そのものである。ドラマの放送はキャメロン首相スキャンダルの4年前。クリエイターのチャーリー・ブロッカーは「元々首相の豚ネタを知っていた」噂を否定する羽目になった。ある面、作家側すらも「情報と大衆」に追い詰められるようなかたちとなった『ブラックミラー』らしい顛末である。

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『マザー!』聖書メタファー解説/男女論ではなく社会派映画?

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 非難を呼んだ話題の問題作『マザー!』。ショッキングな暴力描写が展開される作は、アメリカの映画館出口調査CinemaScoreで5年ぶりのF評価を下された。どんな話かというと「夫婦の家にやってきた不審な来客を夫が招き入れつづけ妻が困惑する話」としか説明ができない。男女の物語と考えると不快な印象を与えてくるが、本作はキリスト教の聖書をベースにした宗教暗喩の寓話だ。しかし、この作品を掘り下げると、単なる「宗教寓話」ではない。ダーレン・アロノフスキー監督の最終的な目標は「ある社会問題の提議」なのだ。張り巡らされた聖書のメタファーを紹介したのち、監督の発言を引用し“真の目的”に迫る。

【以下、完全ネタバレ】  続きを読む

神KUSOスターアワード2017

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 神KUSO--Goddes Shit--それはマスメディアの年末振り返り記事でもクソのよつなネタとして掲載外に処されるセレブたちの咆哮。神KUSOスターアワードとは、そのようなクソ扱いを受けるものにこそスターたちの人間味が宿ると考え、その神秘性を真面目に讃える授与式である。政治の大変動によって多くの著名人が叫びをあげた2017年。本邦も神KUSOアワードでありながら社会問題に関連した授賞が相次いだ。そんな17年のエンパワ賞、フェイム賞、カップル賞とは--

【エンパワ賞】マライアキャリーのパネルが作られる

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